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9 商業ギルドの勧誘だよ


 茶色髪ロングのお姉さんがポーションと練り薬草を購入してくれた。


「ねえ、あのさ」

「はい。なんでしょう?」


 改まって言われるとなんだろう。


「なんでこんな露店で錬金術師様が実演販売しているか、前から疑問だったんだけど、なんで?」


 ずばりお姉さんは言う。


「え、あ、あの。その」

「言いにくいことかい? なんなら向こうのカフェで話をしてもいいよ。もちろん露店の売り上げ減少と手間賃は出すけど」

「あいえ、大丈夫です」


 別にそういう事ではない。ちょっとこういう話をしたことがなくて、慣れていないから焦ってしまった。


「あの田舎から出てきて、ハシユリ村っていうんですけど」

「知らない村だな」

「そうですよね。それでまだ出てきたばかりでお金も何もないもので、えへへ」

「あーそういうことか。完全に理解した」


 お姉さんはなにやら考えるポーズを取っていた。


「じゃあこうしよう。あなたを私は勧誘します」

「はあ勧誘ですか?」

「そう勧誘。具体的にはホーランド商業ギルドへ加入してください。もし加入してくれれば、賃貸物件をご融資します。頭金なしでお店が手に入ります」

「え、ちょ、ちょっと待ってください」

「ええ。悪い話ではないと思います。じっくり考えてください」


 露店の前で考える。賃貸の物件を頭金なしで貸してくれる。

 ふむ。悪くないよね。何かわなとかないだろうか。


「お嬢さんたち。ちょっと、その話。待っていただけませんか?」


 今度は紳士が話しかけてきた。あ、この人も数日前から来る常連さんだ。


「あ、はい」

「その人の話を聞いてはいけません。この紳士は変態なんです」

「何勝手に人のことを。ワシは変態なんかじゃないぞ」

「いえ、小さくて若い女の子を何人もメイドとして雇って、そして大きくなると他の業者に紹介して屋敷から出すという。少女に目がないヤバい人なんですよ」

「そんな、そんなこと、ないに決まっている。決めつけだ。そんなこと」


「すみません。よく分からないので、そういうのは向こうでやってくれませんか? 営業妨害ですよ」

「あいや、すまん」

「すみません」


 老紳士もお姉さんも話は分かるらしく、一度黙る。


「で紳士は誰です? というかお姉さんも誰なんでしょうか。ちなみに私はミレーユ・バリスタットです」

「ああ、私はメイラ・ホーランド。ホーランド商業ギルドの副会長だ」

「ワシはボロラン・ロッドギン。メホリック商業ギルドのナンバースリーだ」

「なるほど、つまり」


 こうして頭を回転させる。


「つまりですよ。ホーランド商業ギルドとメホリック商業ギルドが私を勧誘に来て、カチ合ったということで、よろしいですか?」

「はい、そうなりますね。遺憾ながら」

「その通りですじゃ。機会はワシらにも平等にあるべきはずです」


 まあ平等は確かに大切だよね。


「分かりました。きっと長い付き合いになりますし、両方に加盟するというのは」

「もちろん、なしですよ」

「なしに決まっておろう」

「ですよね。ふむふむ」


 はあ、と一度ため息をついて、考える。


「一週間ください。両方のギルドを自分で調査します。その結果、どちらかに加盟するというのでどうでしょう。両者裏で手を回すのはなしです。結果に文句付けるのもなしです。いかがでしょう」

「若いのにしっかりしているな。よいでしょう」

「まったくじゃわい。ぜひうちに欲しい。異論はない」


「ではいいですね。一週間後。また二人で『なかよく』来てください」

「分かりました。では今日のところは失礼します。ミレーユちゃん」

「では、こちらも失礼する。ではミレーユ嬢」


 二人はその後も、小突きあいをしながら『なかよく』去っていった。


「はぁ、なんなんあれ」

「きゅきゅ」

「私を癒やしてくれるのは、ポムだけだねぇ」

「きゅきゅ」


 ポムを抱き上げて、両手で持ってぽんぽんする。

 はあ癒やされる。この絶妙な柔らかい感触。何物にも代えがたい気持ちよさがある。


 ぽむぽむぅ。


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