茶色髪ロングのお姉さんがポーションと練り薬草を購入してくれた。
「ねえ、あのさ」
「はい。なんでしょう?」
改まって言われるとなんだろう。
「なんでこんな露店で錬金術師様が実演販売しているか、前から疑問だったんだけど、なんで?」
ずばりお姉さんは言う。
「え、あ、あの。その」
「言いにくいことかい? なんなら向こうのカフェで話をしてもいいよ。もちろん露店の売り上げ減少と手間賃は出すけど」
「あいえ、大丈夫です」
別にそういう事ではない。ちょっとこういう話をしたことがなくて、慣れていないから焦ってしまった。
「あの田舎から出てきて、ハシユリ村っていうんですけど」
「知らない村だな」
「そうですよね。それでまだ出てきたばかりでお金も何もないもので、えへへ」
「あーそういうことか。完全に理解した」
お姉さんはなにやら考えるポーズを取っていた。
「じゃあこうしよう。あなたを私は勧誘します」
「はあ勧誘ですか?」
「そう勧誘。具体的にはホーランド商業ギルドへ加入してください。もし加入してくれれば、賃貸物件をご融資します。頭金なしでお店が手に入ります」
「え、ちょ、ちょっと待ってください」
「ええ。悪い話ではないと思います。じっくり考えてください」
露店の前で考える。賃貸の物件を頭金なしで貸してくれる。
ふむ。悪くないよね。何か
「お嬢さんたち。ちょっと、その話。待っていただけませんか?」
今度は紳士が話しかけてきた。あ、この人も数日前から来る常連さんだ。
「あ、はい」
「その人の話を聞いてはいけません。この紳士は変態なんです」
「何勝手に人のことを。ワシは変態なんかじゃないぞ」
「いえ、小さくて若い女の子を何人もメイドとして雇って、そして大きくなると他の業者に紹介して屋敷から出すという。少女に目がないヤバい人なんですよ」
「そんな、そんなこと、ないに決まっている。決めつけだ。そんなこと」
「すみません。よく分からないので、そういうのは向こうでやってくれませんか? 営業妨害ですよ」
「あいや、すまん」
「すみません」
老紳士もお姉さんも話は分かるらしく、一度黙る。
「で紳士は誰です? というかお姉さんも誰なんでしょうか。ちなみに私はミレーユ・バリスタットです」
「ああ、私はメイラ・ホーランド。ホーランド商業ギルドの副会長だ」
「ワシはボロラン・ロッドギン。メホリック商業ギルドのナンバースリーだ」
「なるほど、つまり」
こうして頭を回転させる。
「つまりですよ。ホーランド商業ギルドとメホリック商業ギルドが私を勧誘に来て、カチ合ったということで、よろしいですか?」
「はい、そうなりますね。遺憾ながら」
「その通りですじゃ。機会はワシらにも平等にあるべきはずです」
まあ平等は確かに大切だよね。
「分かりました。きっと長い付き合いになりますし、両方に加盟するというのは」
「もちろん、なしですよ」
「なしに決まっておろう」
「ですよね。ふむふむ」
はあ、と一度ため息をついて、考える。
「一週間ください。両方のギルドを自分で調査します。その結果、どちらかに加盟するというのでどうでしょう。両者裏で手を回すのはなしです。結果に文句付けるのもなしです。いかがでしょう」
「若いのにしっかりしているな。よいでしょう」
「まったくじゃわい。ぜひうちに欲しい。異論はない」
「ではいいですね。一週間後。また二人で『なかよく』来てください」
「分かりました。では今日のところは失礼します。ミレーユちゃん」
「では、こちらも失礼する。ではミレーユ嬢」
二人はその後も、小突きあいをしながら『なかよく』去っていった。
「はぁ、なんなんあれ」
「きゅきゅ」
「私を癒やしてくれるのは、ポムだけだねぇ」
「きゅきゅ」
ポムを抱き上げて、両手で持ってぽんぽんする。
はあ癒やされる。この絶妙な柔らかい感触。何物にも代えがたい気持ちよさがある。
ぽむぽむぅ。