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第573話 曲芸

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


螺子師と螺子ドロボウは、扉をくぐって、砂漠にやってきた。

カラカラの砂漠。

砂と岩とぎらぎらの太陽。

遮るものが少ないそこで、

遠くにサーカスのテントを見つけた。


サーカスは、オアシスの近く、

小さな町のようになってテントが張られていた。

動物たち、曲芸師、ピエロ。

それに加えてどこから来たのか、

客もそれなりにいて、

サーカスの一座のテント周辺は、

暑くカラカラしていても、にぎわっていた。


呼び込みの男にチケットを見せて、

中に入れてもらう。

テント周辺で火吹き男や早撃ちの女性などが、

その技を見せている。

中心にひときわ大きなテント。

どうやらそこがメインステージらしい。

「はい」

不意に何かを渡されたのを、

螺子師は疑いなく受け取った。

それは冷たいジュースとポップコーン。

渡したのは螺子ドロボウだ。

「そこで売ってたんだ。飲み物は欲しかったでしょ」

「盗んでないだろうな」

「盗むのは螺子だけです。さ、いこうか」

螺子師は複雑な顔をして、

冷たいジュースをすすった。

果実の甘みと酸味が絶妙だった。


テントの中は意外と涼しく、

今まさにショーが始まるところだった。

始まればそれは夢のような曲芸の数々で、

綱渡り、空中ブランコ、動物の曲芸、

自転車にたくさんの美女が乗り、

椅子は高く積み上げられ、

ナイフ投げは見ているものをハラハラさせる。

どこを見ても見飽きることのない、

本物のサーカスがそこにあった。

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