目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第569話 会話

斜陽街番外地。

探偵事務所がある。

ここの探偵は、勘が鋭い。

勘でたいてい解決してしまう探偵だ。

よそはいろいろと調査するのかもしれないけれど、

ここの探偵はそうだ。


ただし、斜陽街が斜陽街であるように、

探偵も、奇妙なことによく巻き込まれる。

勘の赴くままに従い、歩くと、

何か、説明しづらいことが起きたりする。

勘はすべてを理解しての能力ではない。

だから、探偵はこの能力が好きだし、

今日も勘の赴くままに歩く。

何が起こるか、わからないけれど、こっちに向けて。

そういうノリが探偵は好きだ。


この探偵には助手がいる。

依頼人に茶を出すこと、

暇なときに本を読むこと、

それから、過去の事件を彼なりにまとめること。

仕事は多くないけれど、

あまり文句も言わずに、仕事をしている。


さてこの日は。

助手は茶の葉を買いにちょっと出かけていた。

探偵はぼんやりとしている。

会話のない空間。

それを想像して探偵はため息を一つついた。

一人なら会話がないのは当たり前だけど、

無声空間ってどんなものだろう。

逆もまたありうるのだろうか。

会話の濁流のような…

そこまで考えて、助手が戻ってきた。

「ただいまー」

「おかえり、ん?何かの紙か?」

「隠し事できませんね。電波局というものがよその町にあるらしいんです」

「へぇ…」

「何をしているかはわからないんで、パンフレットをもらってきました」

「電波局に行ったのか?」

「いえ、いつものお茶屋さんに置いてあったので」


探偵はそこまで聞いて、

席を立って、ハンガーにかけてあるクリーム色のコートを羽織る。


「勘が呼んでる。ちょっといってくる」

助手もなれたもので、

「いってらしゃい」

と、返した。


会話の阿吽は、いつものことである。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?