斜陽街一番街。
ヤジキタ宅急便屋がある。
品物を受け取り、届けるのが仕事のシンプルなものだが、
トラブルに巻き込まれることもたまにある。
ヤジマという女性も、相棒のキタザワという男も、
外見に似合わず割とタフである。
彼らが斜陽街に来る前に何かあったらしいけれど、
荒事を繰り返してもへこたれない。
芯の強い宅急便屋である。
さて、今回届けることになった品物は、
野太刀である。
調べてみると、大きな太刀の一種であるらしい。
キタザワはそれを受け取り、いつものように書類っぽい手続きをする。
割とこの男はこれでいてマメだ。
そして、届けに来た依頼人が、面をかぶっていたこと。
それをヤジマに話をして、
「面?」
と、ヤジマは問い返す。
「そうです。ええと、能面みたいなの」
「へぇ…それは大層、まともな届け物じゃないな」
「まぁ、俺たちで届ければ大丈夫ですよ!」
「根拠薄いな」
ヤジマが切って捨てると、キタザワは叱られた犬のようにしょぼんとする。
「まぁいい。それで、依頼人の名前はなんて書いてある?」
「翁、だそうです」
「おきな、か。じじいの面をかぶっていたのか」
「そうです。で、届け先は…」
届け先は、野良狗。
何某の扉の向こうの、狗の面をつけた男。
「ところでキタザワ、野太刀は抜いてみたか?」
「いいえ、こわくて」
「それがいい。何か呪いがかかってないとも限らない、用心に越したことはない」
「そうですね」
二人は荷物としておいてある野太刀を見る。
禍々しさはないようにも見えるが、
あるいは、野太刀はまだ眠っているのかもしれない。
とりあえずの布を野太刀に巻いた。
この布も神が織ったといういわれのある布だ。
それなりに護ってくれると信じよう。
荷物はキタザワが持って、彼らは届けに出かけることとなった。