斜陽街番外地。
砂屋の店がある。
簾と風鈴が涼しげな、
和のような、または、どこかのアジアのような店だ。
砂屋の主人は、
円錐形の編笠か何かみたいなものをいつもかぶっている。
顔が見えないわけではないけれど、
国籍は十分わからない。
今日は、砂屋の主人は、
一つの石をしげしげと見ていた。
「雪晶花ですね」
どこかの客が持ち込んだその石を、
砂屋は雪晶花だという。
客はすでに去ってしまった後だけど、
砂屋はやっぱり、しげしげと石を見ている。
一説によると、
雪の化石というものでもあるらしい。
あるいは、
雪の花の化石という説もある。
これを砕けば、中から雪が、冬が、出てくるかもしれない。
あるいは、これは寒さを閉じ込めた卵かもしれない。
きらきらと雪の破片の塊のようなその石は、
花という感じがあてられるだけあり、
とても美しい、石だ。
もう一つ、この石に関して噂があるのが、
寒いと言ってはいけない、極寒の国があり、
そこで、人々の寒さを表す言葉がすべて石になったという説。
言葉。
言葉が石になるものだろうか。
美しい言葉、寒さを隠した言葉の石。
寒いこと、雪があること、氷が冷たいこと。
全て言葉にできなかったその国は、
いったい何が話されていたのだろう。
「砂にはしないでおきましょう」
砂屋はその石を、砂にせずにそっと飾ることにした。
売り物にするには、どうにも砂屋自身が許せない。
これは売るものではなく、砂にするものでもなく、
砂屋に会いに来たものかもしれない。
斜陽街でないどこかの、きれいな石。
思い遥かに、雪晶花はそこにある。
風鈴が、ちりんとなる。
涼しげな、斜陽街番外地の砂屋である。