目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第563話 砂漠

新しい朝が来た。希望の朝だ。

ラジオから流れる歌。

どこのラジオ局だかは知らないけれど、

健全なこの朝の歌および朝の体操が、

螺子師は気に入っていた。

体操を一回通してやって、

今日もいい一日が始まるだろうと思ったところに、


「やあ」


螺子師の店にいつの間にかやってきてくつろいでいる、

商売敵というかなんというか。

とにかくいるのは螺子ドロボウ。

螺子師は無言で十字レンチの大きいのを構えた。

今日こそぼこぼこにして、ドロボウなんてできないようにしてやる!

と、思った、のだが。


一枚の紙が、それをひょいとさえぎった。

「まぁ、見てよ」

螺子ドロボウがつきつけたと理解する前に、

目の前にある紙に目を通す。

「…サーカス?」

「そう、経由する扉も多くないしさ、ちょっと遊びに行かない?」

「仕事があるんだ。断る」

「そんなこと言わないでさー」

螺子ドロボウはなぜか食い下がる。

「チケットをペアでもらったんだよー。ねーってばー」

「ペア?」

「うん」

「ほかの誰かと行けばいいじゃないか」

螺子師は当たり前のことを言う。

帰ってきた答えは、

「友達は君しかいないんだよー」

螺子師はそこで、キレた。


「ドロボウなんてしているからだ!大体、誰が友達だ!」


怒鳴る。

それでひるむ螺子ドロボウではない。

「とにかく、友人なんだから、喜んでよー。ねー」

「誰がだ!」

「来てくれたら、しばらく螺子盗むの休むからさー」

螺子師はその言葉に、ピタッと止まった。

「二言はないな?」

「え、うん。来てくれるのかな?」

「ペアチケットを下手に無駄にするよりはいい」

「ありがとー」

螺子ドロボウは喜色満面の笑み。

何にも企まない顔を、しばらくぶりに見た気がする。


「それで、サーカスはどこだ?」

「扉経由した砂漠。カラカラの砂漠でサーカスがあるのさ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?