斜陽街一番街。
電脳中心という店がある。
斜陽街において、電脳を使うようなことがあれば、
電脳中心の主、電脳娘々が、
検索からハッキングから、さまざまのことをしてくれる。
電脳娘々は、
今、電脳の通信をしている。
相手は、シャンジャーという、
電脳超級風水師、だ。
すごそうだが、大したことないよと、シャンジャーはいつも言うのだ。
「それで、シャンジャー。バベルシステム?」
「うん、全ての言葉が通じるシステムらしいんだ」
「それで、バベル」
「まだ未完成だけどね」
「それでもすごい話ね」
シャンジャーのいうところによると、
バベルシステムは塔の形をとっていて、
その中にバベルの核のシステムがあるそうだ。
電脳娘々は、システムというか、核がどうこうは興味ないが、
すべての人間が言葉を気さくにかわせたら。
それはそれでいいなぁとは思った。
「ネットの仮想空間に、バベルの町はすでにあるんだ」
「へぇ、早いこと」
「たくさんの国の人が、実験に付き合ってる」
「実験?」
「うん、言葉のニュアンスの違いを、どう伝えるかの実験」
「成果は出ているの?」
「見に行ってみる?結構すごいんだ」
ふだん冷静なシャンジャーに似つかわしくなく、
バベルの町を見せたくてたまらない、子供のようなシャンジャーである。
電脳娘々は、そんなシャンジャーの面白そうなことに、のった。
「仮想空間よね。電脳体にシフトしていってからがいいかしら」
「そうだね、生体はまだ無理みたいだから、シフトよろしく」
「場所は?」
「向こうにいったら転送アドレスで呼ぶよ」
「よろしく」
電脳娘々は、歯医者にあるような、ゆったりした椅子に腰かけ、
ゴーグルをかけると、呼吸を一つつく。
電脳娘々の身体を、
コードたちが繭を作るようにゆっくり回る。
何かがつながるような感覚。
色彩が目の前で破裂するような感覚。
五感がデジタルに変わっていることを確認する。
電脳娘々は電脳世界にアクセスをした。