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第559話 罪悪感

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


ここはゴブリン通り。

ここで鎖師および腐り死と戦った、

クビキリは腐って死んだ。

腐り死は満足をする。

そして、鎖師に主導権を渡す。

鎖師は不意に感覚が表に出て、

一瞬くらっとする。

息を整え、現状を把握しようとする。


腐った残骸。

これは、私がやった。


じゃらりと輝く鎖が鎖師に絡みつく。

なぐさめているようでもある。

それでも、鎖師は心にしこりのようなものが残っている。

他に手はなかったのだろうか。

鎖師と腐り死には、腐らせるしかなかったと思って、

鎖師は軽く自分が嫌いになる。


遠くで、ゴブリンの鳴らす、

オモチャのピアノを乱暴に叩くような音色。

ああ、そうか。

クビキリがいないとわかったから、でてきたのかもしれない。

それならそれでいいのかもしれない。

腐って死なせた罪悪感はあるけれども。

クビキリはそうでもしないと止まらなかったし、

無意味なことは終わらせなくちゃいけない。

クビキリの物語はこうして終わらせるしかなかった。

ぐずぐず溶けて終わらせるしかなかった。

やがてここに雨が降ったら、

クビキリの残骸も流れてどこかに消えるだろうか。

そうして、ゴブリン通りは平和になる。

それで、いいのだ。


鎖師の罪悪感が全てとけたわけではないけれど、

鎖師は、クビキリをおぼえていようと思った。

自分の意思で腐り死を出して、

そうして殺した存在だから、

鎖師が覚えていないといけない。


鎖師は、帰路に着く。

ゴブリン通りから、斜陽街へと。

扉の位置は覚えている。

足取りは重くも軽くもなく。

顔に悲壮感などもなく。

鎖師はいつものように。

それでも、記憶の片隅に、

顔もないクビキリの記憶。

無邪気なクビキリは、覚えてくれる人を見つけた。


クビキリが幸せかは、わからない。

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