これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
ここはゴブリン通り。
ここで鎖師および腐り死と戦った、
クビキリは腐って死んだ。
腐り死は満足をする。
そして、鎖師に主導権を渡す。
鎖師は不意に感覚が表に出て、
一瞬くらっとする。
息を整え、現状を把握しようとする。
腐った残骸。
これは、私がやった。
じゃらりと輝く鎖が鎖師に絡みつく。
なぐさめているようでもある。
それでも、鎖師は心にしこりのようなものが残っている。
他に手はなかったのだろうか。
鎖師と腐り死には、腐らせるしかなかったと思って、
鎖師は軽く自分が嫌いになる。
遠くで、ゴブリンの鳴らす、
オモチャのピアノを乱暴に叩くような音色。
ああ、そうか。
クビキリがいないとわかったから、でてきたのかもしれない。
それならそれでいいのかもしれない。
腐って死なせた罪悪感はあるけれども。
クビキリはそうでもしないと止まらなかったし、
無意味なことは終わらせなくちゃいけない。
クビキリの物語はこうして終わらせるしかなかった。
ぐずぐず溶けて終わらせるしかなかった。
やがてここに雨が降ったら、
クビキリの残骸も流れてどこかに消えるだろうか。
そうして、ゴブリン通りは平和になる。
それで、いいのだ。
鎖師の罪悪感が全てとけたわけではないけれど、
鎖師は、クビキリをおぼえていようと思った。
自分の意思で腐り死を出して、
そうして殺した存在だから、
鎖師が覚えていないといけない。
鎖師は、帰路に着く。
ゴブリン通りから、斜陽街へと。
扉の位置は覚えている。
足取りは重くも軽くもなく。
顔に悲壮感などもなく。
鎖師はいつものように。
それでも、記憶の片隅に、
顔もないクビキリの記憶。
無邪気なクビキリは、覚えてくれる人を見つけた。
クビキリが幸せかは、わからない。