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第555話 飴

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


ポップコーンは革命ののろしとなって、

この都市の反乱分子が一斉蜂起する。

シナリオはそうであり、今まさにそうなった。

後に伝えられるチョコレート革命である。


お菓子が飛び交い、叫びが飛び交い、

戦いが繰り広げられる。

「お菓子を!」

「甘いものを!」

欲求を表に出してもいいと言う風が吹く。

それは安全圏にいた人々にも伝播して、

みんながお菓子を欲しがる。

欲しがってもいいんだ。

お菓子をください、むしろよこせ。


ヤジマとキタザワは、そんな町の端っこにいた。

アイ・スクリームの連中は革命でそれどころではない。

挨拶も何もなく、とりあえず逃げてきた。

英雄なんかにされちゃたまったもんじゃない。

「ヤジマさん」

「うん?」

「この都市、どうなっちゃうんでしょう?」

「さぁな」

ヤジマは思う。

結局誰かが偉くなる。

結局誰かが貧乏くじを引く。

結局みんな不満を募らす。

そして、結局…

考えて、軽くため息。

「はい、ヤジマさん」

ヤジマの前に、キタザワの手、と、

「飴?」

「はい、さっきの方々からもらいました」

ヤジマは飴を手にする。

キタザワは犬の尻尾がついていたら、

ぶんぶん振っていそうなほど嬉しそうに。

「何か嬉しいのか?」

「え?わかります?」

丸わかりだとは黙っておく。

「ヤジマさん基本的に甘いの食べないじゃないですか」

「…そうか?」

「疲れたときには甘いものですよ。ため息増やしちゃいけません」

「わかった」

ヤジマが答えると、キタザワはますます嬉しそうで、

この都市で一仕事したのも、

まぁ、悪いことばかりではなかったとヤジマは思った。


ヤジマは飴を口にいれて、がりりと噛む。

「うまいな」

ヤジマは簡潔に言う。

「帰ってお茶にしましょう。甘いものとよく合いますよ」

キタザワは、にこにこと笑顔で。

まったくどいつもこいつも平和思考だ。

ヤジマは思ったけど口には出さなかった。

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