これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
ポップコーンは革命ののろしとなって、
この都市の反乱分子が一斉蜂起する。
シナリオはそうであり、今まさにそうなった。
後に伝えられるチョコレート革命である。
お菓子が飛び交い、叫びが飛び交い、
戦いが繰り広げられる。
「お菓子を!」
「甘いものを!」
欲求を表に出してもいいと言う風が吹く。
それは安全圏にいた人々にも伝播して、
みんながお菓子を欲しがる。
欲しがってもいいんだ。
お菓子をください、むしろよこせ。
ヤジマとキタザワは、そんな町の端っこにいた。
アイ・スクリームの連中は革命でそれどころではない。
挨拶も何もなく、とりあえず逃げてきた。
英雄なんかにされちゃたまったもんじゃない。
「ヤジマさん」
「うん?」
「この都市、どうなっちゃうんでしょう?」
「さぁな」
ヤジマは思う。
結局誰かが偉くなる。
結局誰かが貧乏くじを引く。
結局みんな不満を募らす。
そして、結局…
考えて、軽くため息。
「はい、ヤジマさん」
ヤジマの前に、キタザワの手、と、
「飴?」
「はい、さっきの方々からもらいました」
ヤジマは飴を手にする。
キタザワは犬の尻尾がついていたら、
ぶんぶん振っていそうなほど嬉しそうに。
「何か嬉しいのか?」
「え?わかります?」
丸わかりだとは黙っておく。
「ヤジマさん基本的に甘いの食べないじゃないですか」
「…そうか?」
「疲れたときには甘いものですよ。ため息増やしちゃいけません」
「わかった」
ヤジマが答えると、キタザワはますます嬉しそうで、
この都市で一仕事したのも、
まぁ、悪いことばかりではなかったとヤジマは思った。
ヤジマは飴を口にいれて、がりりと噛む。
「うまいな」
ヤジマは簡潔に言う。
「帰ってお茶にしましょう。甘いものとよく合いますよ」
キタザワは、にこにこと笑顔で。
まったくどいつもこいつも平和思考だ。
ヤジマは思ったけど口には出さなかった。