砂屋は斜陽街を歩いていた。
砂屋は砂を扱っている職業のものだ。
砂の意思を読み、砂をある種操る。
そして、砂をきれいにして売っている。
ざっと説明すればそんなことをしている。
砂屋はどこかのアジアの人間がかぶっているような、
円錐の浅い菅笠をかぶっていて、
服装こそあまり個性的ではないが、
特別目立ってもしょうがないのかもしれない。
他の連中が、変なところで個性的過ぎるのかもしれない。
砂屋は、斜陽街の石を拾って、
意思を読み取って砂にしようかと試みてみる。
砂屋はそういうこともできる。
出来るけれど、そうまでしても意思を失わない砂はそうそうない。
たとえるなら、
物語を文章言葉の単位まで分解しても輝くか。
そういうものかもしれないと思う。
砂屋は、石と無言の会話をして、
石をまたもとの場所において、
歩き出そうとする。
「あら?」
上から声。
見れば、マネキンが壁から生えている。
「ここから先は落ち物通りよ、何か落としたいのかしら?」
砂屋は、マネキンに視線を上げて、
菅笠をずらして挨拶する。
「砂屋です、どうも」
「あら、こんにちは。砂を探しに来たの?」
「それもあるし、散歩でもあります」
「何か見つけた?」
マネキンは興味しんしんで。
「この町は、砕きにくい言葉の砂でできている気がします」
砂屋は感覚を説明する。
「独立しているようで、みんながいないとちゃんと表現できない」
「ふぅん…」
「石や砂と言うより、斜陽街はひとつの生き物かも知れませんね」
「いきもの?」
「はい」
砂屋は肯定する。
「生きています。沢山の言葉と物語を抱えて」
マネキンはくすっと笑う。
「あたしたちはなんなのかな?」
砂屋は答える。
「そりゃ簡単です」
「なぁに?」
「この斜陽街の住人です」
砂屋が涼しげにこともなく言うものだから、
マネキンは当たり前のことを言われたことに、気がつくのが遅れた。
気がついたら笑い出し、
「最高よ、砂屋さん」
と、手放しでほめた。
砂屋は菅笠に顔を隠すようにして、照れながらその場をあとにした。