斜陽街三番街、がらくた横丁の螺子師の店。
店の前に倒れていた螺子師は、むくりと身体を起こす。
「あー…」
螺子師は自分の記憶などを再構築する感覚を使う。
うまく説明できないけれど、
あそこから離脱したらしい。
「起きた?」
螺子師の近くで、タバコをすっているふざけた奴。
螺子師は、怒る気力も今のところない。
ため息を大きくついて、
「起きた。散々だ」
螺子師にしては珍しく、疲れきっている。
螺子ドロボウはそれをかぎとる。
「…変な箱については、ごめん」
いつになく、螺子ドロボウは気持ち悪いほど素直で、
螺子師は疲れた顔に、驚愕を浮かべたあと、苦笑い。
「今度からは気をつけろ」
「うん」
螺子ドロボウは、タバコをふかす。
螺子師は、とにかくあちこちの螺子を調整しなくちゃと思うのに、
身体が疲れて言うことを聞かない。
「螺子師さん、少し休むといいよ」
「誰の所為だと思って…」
「うん、螺子ドロボウが悪いです。だから」
「だから?」
「俺の望みで多分ああなったから、ごめんなさい」
「ちょっと、まて」
螺子ドロボウは、タバコの火を消すと、
「ごめん」
と、言い残して、消えた。
あとには、疲れた身体をどうにか引きずって、店に戻る螺子師の姿。
螺子ドロボウのささやかな望み。
触れるか触れないかの距離を永遠に続けられないか。
多分、あの箱はそれを忠実に再現した。
まさかパンドラの箱の中と言うことはないだろうけど、
あの箱の中の空は、それなりに楽しかった。
そして、その中の物語から、彼らは離脱を望んだ。
疲れた螺子師は夢を見る。
夢の中螺子師は空を見上げている。
青い青い空。
そこから、何かが落ちてくる。
ふざけた奴が落ちてくるとわかっているのに、
螺子師は少しだけ愉快な気分になる。
箱の中から。
彼らは青い物語から離脱して、
彼らの物語を、また、つむごうとしている。
彼らの舞台はどこでもいいのかもしれないし、
なじんでいるのが、たまたま、斜陽街と言うある種の故郷なのかもしれない。
彼らは斜陽街に帰ってきて、
箱はどこかに消えてしまった。