斜陽街番外地。
何番街とされていない通り。
いわゆる路地裏に、扉屋はある。
扉屋は扉を作っている。
材料はそれこそ様々。
扉屋の扉は、別の世界をつないでいるともっぱらの噂で、
そこをくぐってどこかに出かける連中もいるし、
どこかからやってくる奴らもいる。
扉屋の主人の老人は、
皺の深く掘られた老人で、
いつも何かしらの扉を作っている。
誰かが、千の扉を作れと神に言われた、と、
つぶやいているのを聞いたと言う。
広さの感覚がおかしくなるほど、扉だらけの扉屋にいると、
とっくに千の扉を越えているんじゃないかとすら思う。
実際、数を数えたものはいない。
扉屋自身も、数えていないかもしれない。
千でなく、無数の扉と言い換えてもいいのかもしれない。
無の数。
それは、あるのか、ないのか。
扉が置かれている空間の広さもかなりの謎ではあるけれど、
材料は一体どこから調達しているのだろうか。
扉屋の倉庫らしい扉の向こうには、
いつも何かしらの材料が転がっているらしい。
扉屋はそれを引っ張り出してきて、
しばらくの作業の後、扉に仕立て上げる。
不思議は何もないのかもしれない。
ただ、倉庫と思っているそこが、
斜陽街でないのかもしれないと言うことをのぞいて。
扉屋は今日も扉を作る。
扉は作って、開かなくてはならない。
扉屋が開くのではなく、
誰か、別のどこかに行きたいと求めるものが、
扉を開くのがいいらしい。
開いたそのときから、扉は向こうとこちらをつなぐ。
扉をくぐればどこかにいける。
どの扉がどこにつながっているのか、
扉屋はわかっているけれど、説明してくれない。
扉屋は扉を作る。
誰かが扉を開く。
扉屋の扉は全ての世界をつないでいるわけじゃない。
けれど、あらゆる世界に通じる扉屋になったとしても、
扉屋はそれでも、どこかから材料を調達してきて、
新しい扉を作るのかもしれない。
それを開くのが、誰なのか、それは扉屋にもわからない。