夢物語の国の端っこ。
浜辺でテープレコーダーの歌姫と、夜羽は並んで、いる。
夜羽は座っていて、
海を見るように顔を向けている。
時間はすっかり歪んでいて、
朝になって、夜になって、月が満ちてかけて。
その歪んだ時間の中、歌姫の歌は、変わりことなくすばらしく、
歌姫がいる意味を夜羽は見出す。
うまく説明がつくわけではないけれど、
すばらしいものは、夢も時間も妄想も物語も、
全てを超えることができるのではないだろうか。
夜羽が感じるところ、この歌姫の歌がすばらしかっただけで、
何かに特別を見出すことができれば、
それは、どこにでも存在しうる。
夢物語から何かを持ち帰ることだって出来る。
そう、夢や物語から、すばらしい欠片を持ち帰れる。
「歌姫さん」
「イヴと言うの」
「では、イヴさん」
「なぁに?」
夜羽は歌姫イヴのほうを向いて、
「一緒にこの国を出る気は、ありますか?」
イヴは答える。
「ないわ。残念だけど。でも」
「でも?」
「あなたが私を覚えていれば、私は永遠に歌えると思うの」
「永遠…ですか」
「ええ」
閉じ込められたような永遠の中、
歌姫イヴは歌うだろう。
求め焦がれた果てに、イヴは歌を贈るだろう。
あなたの耳にもイヴの歌はきっと届いている。
聞こえにくかったら、夢を見るといいかもしれない。
夢物語の端っこで、
テープレコーダーの姿をしたイヴが歌っている。
爆発で吹き飛ぶ主義主張。
永遠の記録を求めて溶けるもの。
貼紙が人を待っている。
繰り返される季節。
落ちる自由。
みんな、何かを求めているからそうなった。
「私はここで歌い続けるわ」
夜羽は立ち上がる。
「あなたにお会いできて嬉しかったです」
「私も、会えてよかった」
「では、帰ります」
「ええ、さよならでは、さびしいわね」
「特別な言葉である必要はありません」
夜羽はそう言って、
「さよなら。きれいな言葉じゃないですか」
夜羽は、歌姫イヴと別れて、帰路に着いた。