目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第369話 蛇腹

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


カモメ、アオイ、アカネは、エレベーターをあがった。

「通電しているんだね」

アオイがつぶやく。

「何が出るかわからないよ。盗電してるかもしれないし」

カモメがたしなめる。

「でも、このビルに果たして人はいるのかな」

アカネがつぶやく。

「検索しても何も出ないもんねぇ」

三者三様、エレベーターの中で納得する。


なんだかおかしな感じがする。

周りが網のようになっているエレベーターだ。

周りが見える。

これがさっき話になった、白黒映画の世界なのか。

人がいる。

なのに白黒に見える。

カモメは目を閉じて開いた。

色彩が白黒に見える。

カモメは頭を振る。

「どうしたの、カモメ」

「ありえないものが見える気がする」

「どれ?」

アカネが周りを見る。

アカネは震える。

見えないのに、いる。

「何か変だよ、アオイ」

「何か変?」

アオイはエレベーターの行先を見る。

どこまでも上がっていく。

「行先ボタンを押したのは誰?」

誰も押していない。

だったら上で誰かが待っている。

それが敵か味方かはわからない。


やがて、チーンと音がして、

エレベーターが止まる。

右左を確認して、三人娘はエレベーターから降りた。

廊下がある。広くない廊下だ。

扉がいくつか並んでいる。

福が上下逆さになっているお守りがかけてある。

そんな蛇腹の扉が続いている。

「一つ一つ見てみようか」

三人娘は手近なところから、いくつか扉を開けようとする。

鍵がかかっているのか、

さびがついているのか、

蛇腹の扉は開かない。

「無駄足かなぁ」

カモメがつぶやく。

「もう一つあるよ」

アオイが隅の扉を示す。

「あそこが外れだったら外れかもね」

「行ってみよう」

アカネがつかつか歩き出す。

蛇腹の扉、最後。

アカネがゆっくり力をこめる。


がらがらがら


扉が開く。

福が逆さになったお守りも動く。

三人娘は顔を見合わせてうなずく。

ここはネットの検索からも外れた場所。

何があるかわからない場所。

もしかしたら助けも入らないかもしれない場所。

「行くしかない!」

三人は蛇腹の開いた扉をくぐった。

何が待っていたとしても、行くしかない。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?