これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
カモメ、アオイ、アカネは、エレベーターをあがった。
「通電しているんだね」
アオイがつぶやく。
「何が出るかわからないよ。盗電してるかもしれないし」
カモメがたしなめる。
「でも、このビルに果たして人はいるのかな」
アカネがつぶやく。
「検索しても何も出ないもんねぇ」
三者三様、エレベーターの中で納得する。
なんだかおかしな感じがする。
周りが網のようになっているエレベーターだ。
周りが見える。
これがさっき話になった、白黒映画の世界なのか。
人がいる。
なのに白黒に見える。
カモメは目を閉じて開いた。
色彩が白黒に見える。
カモメは頭を振る。
「どうしたの、カモメ」
「ありえないものが見える気がする」
「どれ?」
アカネが周りを見る。
アカネは震える。
見えないのに、いる。
「何か変だよ、アオイ」
「何か変?」
アオイはエレベーターの行先を見る。
どこまでも上がっていく。
「行先ボタンを押したのは誰?」
誰も押していない。
だったら上で誰かが待っている。
それが敵か味方かはわからない。
やがて、チーンと音がして、
エレベーターが止まる。
右左を確認して、三人娘はエレベーターから降りた。
廊下がある。広くない廊下だ。
扉がいくつか並んでいる。
福が上下逆さになっているお守りがかけてある。
そんな蛇腹の扉が続いている。
「一つ一つ見てみようか」
三人娘は手近なところから、いくつか扉を開けようとする。
鍵がかかっているのか、
さびがついているのか、
蛇腹の扉は開かない。
「無駄足かなぁ」
カモメがつぶやく。
「もう一つあるよ」
アオイが隅の扉を示す。
「あそこが外れだったら外れかもね」
「行ってみよう」
アカネがつかつか歩き出す。
蛇腹の扉、最後。
アカネがゆっくり力をこめる。
がらがらがら
扉が開く。
福が逆さになったお守りも動く。
三人娘は顔を見合わせてうなずく。
ここはネットの検索からも外れた場所。
何があるかわからない場所。
もしかしたら助けも入らないかもしれない場所。
「行くしかない!」
三人は蛇腹の開いた扉をくぐった。
何が待っていたとしても、行くしかない。