斜陽街一番街、ヤジキタ宅急便屋。
ヤジマとキタザワは、配達を終えて帰ってきていた。
「お茶入れますね」
キタザワは奥に行ってお茶をいれる。
ヤジマは店の前に椅子を持ってきて、
ぼんやりと考え事をしている。
仕事が頻繁に来ているわけでもない。
でも、仕事が全然ないわけでもない。
微妙なところでヤジキタ宅急便屋は営業している。
ヤジマは煙草の箱を取り出す。
吸おうとして無いのに気がつく。
「ちぇ」
ヤジマは短くつぶやく。
「ヤジマさん、お茶はいりましたよ」
キタザワが店の前にやってくる。
「キタザワ、煙草」
ヤジマは命令する。
キタザワは困る。
「俺は煙草持ってないですよ」
「ちぇ」
「ちぇ、じゃないですよ。身体に悪いからやめましょうよ」
ヤジマは茶を手に取る。
熱い。
「あちっ」
「いれたてですから熱いですよ。気をつけてください」
ヤジマは不機嫌になる。
なんだかキタザワにあしらわれている気がする。
店の前でヤジマとキタザワが、ぼんやりお茶を飲んでいたそこに、
くじ箱を抱えた合成屋がやってくる。
「こんにちわー」
「あ、どうもこんにちは」
キタザワが深々とお辞儀する。
ヤジマは茶をすすったまま、首だけ動かす。
「宅急便ですか?」
「いえいえ、くじ引きなのです」
「くじ引き?」
キタザワは首をかしげる。
「当たりはペアチケットなのです。運試しなのです」
「すごいですね」
「一人一回のチャレンジなのです。当たりは一枚なのです」
「うーん、あたるかなぁ」
「物は試しなのです」
「では早速」
キタザワがくじを一枚引く。
はやる鼓動を抑えながらくじを開く。
「はずれ」
「残念でしたー」
「うーん、残念」
キタザワは首を振る。
「あたしもやっていいのかい?」
ヤジマが茶を置いてたずねる。
「どうぞどうぞ」
ヤジマがくじ箱に手を突っ込み、くじを一枚手にする。
はやる鼓動を抑えながら、くじを開く。
「はずれだ…」
「残念でしたー」
合成屋は能天気に告げる。
「ちぇ」
ヤジマは明らかに不機嫌になる。
「それじゃ他の人にも引いてもらいますねー」
言い残すと合成屋はどこかへ行ってしまった。
残ったのは不機嫌なヤジマと残念なキタザワ。
「キタザワ、煙草」
ヤジマは無いものねだりをする。
残念なキタザワは、さらに困ったキタザワになった。