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第365話 外籤

斜陽街一番街、ヤジキタ宅急便屋。

ヤジマとキタザワは、配達を終えて帰ってきていた。

「お茶入れますね」

キタザワは奥に行ってお茶をいれる。

ヤジマは店の前に椅子を持ってきて、

ぼんやりと考え事をしている。

仕事が頻繁に来ているわけでもない。

でも、仕事が全然ないわけでもない。

微妙なところでヤジキタ宅急便屋は営業している。

ヤジマは煙草の箱を取り出す。

吸おうとして無いのに気がつく。

「ちぇ」

ヤジマは短くつぶやく。

「ヤジマさん、お茶はいりましたよ」

キタザワが店の前にやってくる。

「キタザワ、煙草」

ヤジマは命令する。

キタザワは困る。

「俺は煙草持ってないですよ」

「ちぇ」

「ちぇ、じゃないですよ。身体に悪いからやめましょうよ」

ヤジマは茶を手に取る。

熱い。

「あちっ」

「いれたてですから熱いですよ。気をつけてください」

ヤジマは不機嫌になる。

なんだかキタザワにあしらわれている気がする。


店の前でヤジマとキタザワが、ぼんやりお茶を飲んでいたそこに、

くじ箱を抱えた合成屋がやってくる。

「こんにちわー」

「あ、どうもこんにちは」

キタザワが深々とお辞儀する。

ヤジマは茶をすすったまま、首だけ動かす。

「宅急便ですか?」

「いえいえ、くじ引きなのです」

「くじ引き?」

キタザワは首をかしげる。

「当たりはペアチケットなのです。運試しなのです」

「すごいですね」

「一人一回のチャレンジなのです。当たりは一枚なのです」

「うーん、あたるかなぁ」

「物は試しなのです」

「では早速」

キタザワがくじを一枚引く。

はやる鼓動を抑えながらくじを開く。

「はずれ」

「残念でしたー」

「うーん、残念」

キタザワは首を振る。


「あたしもやっていいのかい?」

ヤジマが茶を置いてたずねる。

「どうぞどうぞ」

ヤジマがくじ箱に手を突っ込み、くじを一枚手にする。

はやる鼓動を抑えながら、くじを開く。

「はずれだ…」

「残念でしたー」

合成屋は能天気に告げる。

「ちぇ」

ヤジマは明らかに不機嫌になる。

「それじゃ他の人にも引いてもらいますねー」

言い残すと合成屋はどこかへ行ってしまった。

残ったのは不機嫌なヤジマと残念なキタザワ。

「キタザワ、煙草」

ヤジマは無いものねだりをする。

残念なキタザワは、さらに困ったキタザワになった。

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