斜陽街二番街、洗い屋。
先ほど、べちゃべちゃに汚れた羅刹が帰ってきた。
「はい、シャワー浴びてくださいね」
洗い屋の女性は、羅刹に反論を許さずに奥まで通す。
羅刹のいつも使うシャワールームだ。
べちゃべちゃの服は、洗い屋でぴかぴかになるまで洗われる。
アイロンもかけて、サングラスまで洗う。
いつもは血がしみていることもあるが、
それに比べたら泥まみれ程度。
洗い屋の技術でぴかぴかの新品のようになった。
「洗い屋さん」
羅刹がそっと出てくる。
「服洗っといたよ」
洗い屋の女性は、人懐っこい顔で笑う。
羅刹は身体にバスタオルを巻いて、
どこか無防備に出てきた。
バスタオルに包まれていないところに、
傷跡が何箇所か見える。
たくさん戦ってきた証拠なのだろう。
洗い屋が後ろを向いているうちに、
羅刹は服を着る。
「着ました?」
「うん」
洗い屋が向き直る。
羅刹はサングラスもかけて、いつもの羅刹に戻った。
「あ」
洗い屋の女性が気がつく。
「羅刹さん、傷」
「傷?」
「頬のあたり、痛くない?」
「別に」
「そんなときこそこれだね」
羅刹がわけのわからない間に、
洗い屋は小さな絆創膏を持ってきた。
「薬師の新作。小さい傷ならすぐに治るって」
「いいよ、めんどくさい」
「化膿してからじゃ遅いの。貼りなさい」
「…わかりました」
洗い屋は羅刹に絆創膏を張る。
サングラスの中の子どもっぽい顔が、
なおさら子どもっぽい顔をしている気がする。
洗い屋は笑う。
「なんだかかわいいな」
羅刹はふいとそっぽを向く。
鏡がある。
サングラスで隠していない頬に、
いたずらしてきたような絆創膏。
「ちぇっ」
羅刹は悪態をつく。
生きる気力を食っている鬼なんて、誰も思わない。
いつもよりガキっぽくて、
ボウガンまでおもちゃに見えないかとさえ思う。
「そんなにガキじゃないのに」
羅刹は不服だ。
対する洗い屋は上機嫌だ。
「かわいいもん。いいのいいの」
洗い屋はぎゅうと羅刹を抱きしめる。
羅刹はじたばたする。
「羅刹はいつでも帰ってきていいんだよ」
洗い屋が人懐っこい、いつもの笑いをする。
「返り血も傷も全部洗ってあげるから、いつでもおいで」
羅刹は抱きしめられたまま、絆創膏をいじった。
確かに、ちょっと悪くないと思った。