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第364話 絆創膏

斜陽街二番街、洗い屋。

先ほど、べちゃべちゃに汚れた羅刹が帰ってきた。

「はい、シャワー浴びてくださいね」

洗い屋の女性は、羅刹に反論を許さずに奥まで通す。

羅刹のいつも使うシャワールームだ。

べちゃべちゃの服は、洗い屋でぴかぴかになるまで洗われる。

アイロンもかけて、サングラスまで洗う。

いつもは血がしみていることもあるが、

それに比べたら泥まみれ程度。

洗い屋の技術でぴかぴかの新品のようになった。


「洗い屋さん」

羅刹がそっと出てくる。

「服洗っといたよ」

洗い屋の女性は、人懐っこい顔で笑う。

羅刹は身体にバスタオルを巻いて、

どこか無防備に出てきた。

バスタオルに包まれていないところに、

傷跡が何箇所か見える。

たくさん戦ってきた証拠なのだろう。


洗い屋が後ろを向いているうちに、

羅刹は服を着る。

「着ました?」

「うん」

洗い屋が向き直る。

羅刹はサングラスもかけて、いつもの羅刹に戻った。

「あ」

洗い屋の女性が気がつく。

「羅刹さん、傷」

「傷?」

「頬のあたり、痛くない?」

「別に」

「そんなときこそこれだね」

羅刹がわけのわからない間に、

洗い屋は小さな絆創膏を持ってきた。

「薬師の新作。小さい傷ならすぐに治るって」

「いいよ、めんどくさい」

「化膿してからじゃ遅いの。貼りなさい」

「…わかりました」

洗い屋は羅刹に絆創膏を張る。

サングラスの中の子どもっぽい顔が、

なおさら子どもっぽい顔をしている気がする。

洗い屋は笑う。

「なんだかかわいいな」

羅刹はふいとそっぽを向く。

鏡がある。

サングラスで隠していない頬に、

いたずらしてきたような絆創膏。

「ちぇっ」

羅刹は悪態をつく。

生きる気力を食っている鬼なんて、誰も思わない。

いつもよりガキっぽくて、

ボウガンまでおもちゃに見えないかとさえ思う。


「そんなにガキじゃないのに」

羅刹は不服だ。

対する洗い屋は上機嫌だ。

「かわいいもん。いいのいいの」

洗い屋はぎゅうと羅刹を抱きしめる。

羅刹はじたばたする。

「羅刹はいつでも帰ってきていいんだよ」

洗い屋が人懐っこい、いつもの笑いをする。

「返り血も傷も全部洗ってあげるから、いつでもおいで」

羅刹は抱きしめられたまま、絆創膏をいじった。

確かに、ちょっと悪くないと思った。

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