これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
カフェを兼ねた路面電車が、ちんちんとゆっくり走っている。
探偵はピザを平らげ、助手は紅茶をすすっていた。
ヒビキとワタルはもう一枚ピザを頼もうか迷っていた。
ぎりぎりのお金でもう一枚。
いや、これは我慢すべきか。
優男のワタルは、半ばどうでもいいらしいが、
つんつん頭のヒビキは、メニューを見ながらうんうんうなっていた。
不意に、ヒビキとワタルの席に、ピザが置かれる。
ワタルは怪訝な顔をする。
「あちらのお客様からです」
店員は告げると、また、カウンターの中に戻っていった。
ヒビキは探偵を見る。
探偵はひらひらと手を振る。
ヒビキは、がつがつとピザを食べ始めた。
ワタルはため息をつく。
「少しは疑えよ」
「ピザをくれるやつに悪いやつはいねぇよ」
ヒビキはがつがつ食べる。
「ワタルも食えよ。うまいからよ」
ワタルは探偵を見る。
優雅に紅茶なんか飲んでいる。
「面倒なことになっても知らないからな」
「まぁ食え食え」
差し出されたピザを、ワタルはやけくそで食べた。
まもなく、彼らがピザを食べ終える。
そこに探偵がやってきた。
「ヒビキさんとワタルさんだね」
探偵は近くの椅子を引っ張ってきて、彼らの近くに席を取る。
「ピザならかえさねぇぞ」
「わかってる。あれは仕事の前金みたいなものだ」
「前金?」
「能力の使える君たちへ、仕事の斡旋がきている」
「仕事だって?」
「強い戦士を倒してもらいたい」
「強い戦士?」
「とても強いらしい。君たちの能力で倒してもらいたい」
ヒビキはにんまりと笑う。
「強いやつをやっつける。最高じゃないか。俺引き受け…」
「まて」
ワタルが制する。
「俺たちの能力をどこで知った」
「探偵の勘さ。この勘で探偵やってるんでね」
「あんたもそれなりのプロか」
「そういうことだ」
「報酬はどこから出る」
「ここじゃない町の役場。金なら出してくれるそうだ」
「金なら?」
「俺の町の殺し屋は、金なのが不満でやめたらしい」
「変なやつだな」
ワタルがため息をつく。
「なぁ、引き受けようぜー。久しぶりにバリバリ能力使いたいし」
能天気なヒビキの声に、
ワタルは何度目かのため息をつき、たずねる。
「その町はどこだ?」
探偵はにやりと笑った。