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第363話 能力

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


カフェを兼ねた路面電車が、ちんちんとゆっくり走っている。

探偵はピザを平らげ、助手は紅茶をすすっていた。

ヒビキとワタルはもう一枚ピザを頼もうか迷っていた。

ぎりぎりのお金でもう一枚。

いや、これは我慢すべきか。

優男のワタルは、半ばどうでもいいらしいが、

つんつん頭のヒビキは、メニューを見ながらうんうんうなっていた。


不意に、ヒビキとワタルの席に、ピザが置かれる。

ワタルは怪訝な顔をする。

「あちらのお客様からです」

店員は告げると、また、カウンターの中に戻っていった。

ヒビキは探偵を見る。

探偵はひらひらと手を振る。

ヒビキは、がつがつとピザを食べ始めた。

ワタルはため息をつく。

「少しは疑えよ」

「ピザをくれるやつに悪いやつはいねぇよ」

ヒビキはがつがつ食べる。

「ワタルも食えよ。うまいからよ」

ワタルは探偵を見る。

優雅に紅茶なんか飲んでいる。

「面倒なことになっても知らないからな」

「まぁ食え食え」

差し出されたピザを、ワタルはやけくそで食べた。


まもなく、彼らがピザを食べ終える。

そこに探偵がやってきた。

「ヒビキさんとワタルさんだね」

探偵は近くの椅子を引っ張ってきて、彼らの近くに席を取る。

「ピザならかえさねぇぞ」

「わかってる。あれは仕事の前金みたいなものだ」

「前金?」

「能力の使える君たちへ、仕事の斡旋がきている」

「仕事だって?」

「強い戦士を倒してもらいたい」

「強い戦士?」

「とても強いらしい。君たちの能力で倒してもらいたい」

ヒビキはにんまりと笑う。

「強いやつをやっつける。最高じゃないか。俺引き受け…」

「まて」

ワタルが制する。

「俺たちの能力をどこで知った」

「探偵の勘さ。この勘で探偵やってるんでね」

「あんたもそれなりのプロか」

「そういうことだ」

「報酬はどこから出る」

「ここじゃない町の役場。金なら出してくれるそうだ」

「金なら?」

「俺の町の殺し屋は、金なのが不満でやめたらしい」

「変なやつだな」

ワタルがため息をつく。

「なぁ、引き受けようぜー。久しぶりにバリバリ能力使いたいし」

能天気なヒビキの声に、

ワタルは何度目かのため息をつき、たずねる。

「その町はどこだ?」

探偵はにやりと笑った。

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