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第361話 応急

斜陽街三番街、がらくた横丁。

薬師は自分の店で、新しい薬を作っていた。

「どうかなぁ」

ぼさぼさ頭を後ろで一つにまとめ、

デニムのワンピースを着ている。

ちょこちょこと細かい作業を繰り返す。

「うーん」

また、ちょこちょこと細かい作業をする。

漢方薬の匂いのする店内に、

こりこりと音が響く。

「これを、しみこませればいいかな」

小さな作品群を、薬師は何かの液に浸す。

薬師は伸びをした。

「応急薬ってとこかな。完成かな」


がらくた横丁が、にわかに騒がしくなる。

薬師はひょいと店の外を見る。

「押すなって、ページは山ほどあるんだから」

子どもたちがきゃっきゃと輪になっている。

薬師は店から横丁に出る。

「何、大騒ぎしてるの」

輪の中心にはシキがいた。

頭の上に本を乗っけている。

「おう、この本にいろいろ、書いてもらおうと思ってな」

「ふぅむ」

薬師はページをぱらぱらめくる。

白紙のところが多い。

「あたしも書いていい?」

「どうぞどうぞ」

薬師は子どもからペンを借りると、すらすらと書き出した。


「薬師新作。応急薬。軽い傷、軽い火傷程度なら、まもなく治します」

「使い方は貼るだけ簡単。この効き目をあなたも実感」

「その他薬に関するご用命は、がらくた横丁の薬師まで」


薬師はここまで書き、ペンを子供に返した。

「宣伝だけどよかった?」

「宣伝上等だよ。落書きでもいいしな」

シキはちょっと機嫌がいいらしい。

「それで、応急薬ってどんなのだ?」

「貼るだけである程度の傷なら治せるの。新作だよ」

「使うやついるのかね」

「誰が使うかわかんないから、宣伝だよ」

薬師はにんまり笑う。

「そろそろ第一弾が出来るころだから、みんなに配ってくるよ」

「おう、がんばってな」

「シキもいい本になるといいね」

「おう、俺もがんばるさ」

そういうとシキはふよふよと飛んでいった。


薬師は自分の店に帰ってくる。

応急薬は薬液を吸って、絆創膏サイズにまとまっている。

「貼るだけ簡単」

薬師はにんまり笑う。

「さぁ、みんなに配ってこようか」

薬師は店を飛び出していった。

あてがあるのかどうかはわからないが、

純粋に新しい薬が出来たのが、薬師はうれしかったらしい。

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