斜陽街三番街、がらくた横丁。
薬師は自分の店で、新しい薬を作っていた。
「どうかなぁ」
ぼさぼさ頭を後ろで一つにまとめ、
デニムのワンピースを着ている。
ちょこちょこと細かい作業を繰り返す。
「うーん」
また、ちょこちょこと細かい作業をする。
漢方薬の匂いのする店内に、
こりこりと音が響く。
「これを、しみこませればいいかな」
小さな作品群を、薬師は何かの液に浸す。
薬師は伸びをした。
「応急薬ってとこかな。完成かな」
がらくた横丁が、にわかに騒がしくなる。
薬師はひょいと店の外を見る。
「押すなって、ページは山ほどあるんだから」
子どもたちがきゃっきゃと輪になっている。
薬師は店から横丁に出る。
「何、大騒ぎしてるの」
輪の中心にはシキがいた。
頭の上に本を乗っけている。
「おう、この本にいろいろ、書いてもらおうと思ってな」
「ふぅむ」
薬師はページをぱらぱらめくる。
白紙のところが多い。
「あたしも書いていい?」
「どうぞどうぞ」
薬師は子どもからペンを借りると、すらすらと書き出した。
「薬師新作。応急薬。軽い傷、軽い火傷程度なら、まもなく治します」
「使い方は貼るだけ簡単。この効き目をあなたも実感」
「その他薬に関するご用命は、がらくた横丁の薬師まで」
薬師はここまで書き、ペンを子供に返した。
「宣伝だけどよかった?」
「宣伝上等だよ。落書きでもいいしな」
シキはちょっと機嫌がいいらしい。
「それで、応急薬ってどんなのだ?」
「貼るだけである程度の傷なら治せるの。新作だよ」
「使うやついるのかね」
「誰が使うかわかんないから、宣伝だよ」
薬師はにんまり笑う。
「そろそろ第一弾が出来るころだから、みんなに配ってくるよ」
「おう、がんばってな」
「シキもいい本になるといいね」
「おう、俺もがんばるさ」
そういうとシキはふよふよと飛んでいった。
薬師は自分の店に帰ってくる。
応急薬は薬液を吸って、絆創膏サイズにまとまっている。
「貼るだけ簡単」
薬師はにんまり笑う。
「さぁ、みんなに配ってこようか」
薬師は店を飛び出していった。
あてがあるのかどうかはわからないが、
純粋に新しい薬が出来たのが、薬師はうれしかったらしい。