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第360話 脱出

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


アキはいつものように学校にやってきた。

コンクリートにひびの入った学校。

アキはそれが怪獣に見える。

人を飲み込んで変質させる化け物。

アキはそれを嫌だと感じた。


誰もが大人になる。

大人になるステップとして、学校なんかがあるのかもしれない。

この怪獣に飲み込まれて、咀嚼されて、

出てきたときには変質している。

大人になるために、それをくぐり抜けなければならない。

どんどん変質していって、

一番最初の輝きがなくなってしまう。

アキは目を閉じて思う。

アキにも輝きがあった。

いくつか怪獣に咀嚼されて、

アキの輝きも変質したように思う。

これ以上怪獣の腹の中にいては、

アキは何も輝かなくなる。

アキはそれが怖かった。


大人になるって言うことは、

子どもをどんどん変質させていくこと。

アキはそう思う。

コンクリートの怪獣はその設備。

大人が作り出した、大人のための設備。

アキは決意する。

脱出しよう。この怪獣の腹から。


昼休み。

アキは学校の屋上に上がる。

そこからは海が見える。

さざなみの立っている海だ。

アキはフェンスを越える。

(自殺?)

アキは自分に問いかける。

(違う。脱出するんだ)

アキは一人で答える。

きらきら輝く海は、

アキの最初の輝きを持っているように感じた。

あそこまで飛ぼう。

そう、飛ぶんだ、ここから。

大切なものをどんどん変質させてしまうこの怪獣から、

脱出するんだ。


アキはそっと屋上から飛び降りる。

ふわりと風が吹く。

アキはまっさかさまに落ちていく。

(輝きを)

アキの中にすごい音数のオルゴールが流れる。

海のように輝く音。

その音に、ギターのかきむしるような音色が混ざる。

(私の原初の輝きを)

アキは音に飲み込まれたような感覚を持った。

これは脱出だ。

怪獣の腹の中からの脱出。

輝きを失いたくない、それだけの脱出。

たとえ地面に激突してもいい。

海の輝きを感じられたからいい。

ああ、海のようなあの音色はどこから来るんだろう。


アキの意識はいったん途切れた。

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