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第359話 昇降機

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


三人の娘が、路地を歩いていた。

年代は女子高生程度。

「それでさ、カモメ。そこに何があるって?」

「わかんない、古いビルに何かがあるらしいんだ」

カモメと呼ばれた娘が首をひねって見せた。

「アオイは何かつかんでる?」

「検索したけど何も出なかったなぁ」

アオイも首をひねった。

「アカネはどうよ」

「口コミ検索も何もなし。噂くらいはあるかなと思ったけどね」

アカネも首をひねった。

三人して首をひねりつつ歩く。

この先には、噂では何かあるらしいけれど、

検索しても何も引っかからない。

古いビルがあるらしいけれど、

何があるとは誰も言っていない。

検索の網の目から落っこちている場所。

三人娘はそこを目指していた。


やがて見えてくるコンクリートの塊。

路地の果てに、でんと構えたビル。

装飾は少ないように見えるが、

所々の窓が鳥籠のようになっている。

ベランダというまで作りこまれているわけでもない。

でも、誰かが住んでいるわけでもないらしい。

灰色のおばけのような、そのビルは、三人娘を無視して建っている。

「引き返すなら今かもよ」

カモメが引きつった笑いをする。

「冗談きついね」

アオイも引きつり笑いをする。

「さ、いこいこ」

アカネはすたすた歩く。

その頬が引きつっている。


入り口は硝子の扉だ。

アカネがそっと手を触れる。

重い。

「よい、しょ」

三人してかたまって、入り口から入る。

広いフロアは洒落たつくりをしている。

「うーん?」

カモメが首をひねる。

「昔の映画で見たようなつくりだね」

「昔の映画?」

「なんだか、白黒時代っぽいアメリカとかのカフェとか」

「漠然としてるよ」

「とにかく今風じゃないね」

カモメはそうまとめる。

アオイはあたりを見渡す。

「誰もいないね」

「上にあがれば誰かいるかな」

アカネはエレベーターを示す。

「動いてるかな」

アカネがエレベーターのボタンを押す。

がこがこっと音がして、エレベーターが動き出す。

やがて、チーンと音がして、エレベーターの蛇腹の扉が開く。

誰ともなく乗り込み、エレベーターは上へと上がっていった。

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