これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
三人の娘が、路地を歩いていた。
年代は女子高生程度。
「それでさ、カモメ。そこに何があるって?」
「わかんない、古いビルに何かがあるらしいんだ」
カモメと呼ばれた娘が首をひねって見せた。
「アオイは何かつかんでる?」
「検索したけど何も出なかったなぁ」
アオイも首をひねった。
「アカネはどうよ」
「口コミ検索も何もなし。噂くらいはあるかなと思ったけどね」
アカネも首をひねった。
三人して首をひねりつつ歩く。
この先には、噂では何かあるらしいけれど、
検索しても何も引っかからない。
古いビルがあるらしいけれど、
何があるとは誰も言っていない。
検索の網の目から落っこちている場所。
三人娘はそこを目指していた。
やがて見えてくるコンクリートの塊。
路地の果てに、でんと構えたビル。
装飾は少ないように見えるが、
所々の窓が鳥籠のようになっている。
ベランダというまで作りこまれているわけでもない。
でも、誰かが住んでいるわけでもないらしい。
灰色のおばけのような、そのビルは、三人娘を無視して建っている。
「引き返すなら今かもよ」
カモメが引きつった笑いをする。
「冗談きついね」
アオイも引きつり笑いをする。
「さ、いこいこ」
アカネはすたすた歩く。
その頬が引きつっている。
入り口は硝子の扉だ。
アカネがそっと手を触れる。
重い。
「よい、しょ」
三人してかたまって、入り口から入る。
広いフロアは洒落たつくりをしている。
「うーん?」
カモメが首をひねる。
「昔の映画で見たようなつくりだね」
「昔の映画?」
「なんだか、白黒時代っぽいアメリカとかのカフェとか」
「漠然としてるよ」
「とにかく今風じゃないね」
カモメはそうまとめる。
アオイはあたりを見渡す。
「誰もいないね」
「上にあがれば誰かいるかな」
アカネはエレベーターを示す。
「動いてるかな」
アカネがエレベーターのボタンを押す。
がこがこっと音がして、エレベーターが動き出す。
やがて、チーンと音がして、エレベーターの蛇腹の扉が開く。
誰ともなく乗り込み、エレベーターは上へと上がっていった。