これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
その町には学校がある。
コンクリートの古い校舎だ。
今にも崩れるほどではないが、
怪獣のように無駄に大きくて、
ぱっと見、ひびらしいものが見える。
長年の雨水がなでて、ひびを余計はっきりさせていく。
それが余計その学校を無機質かつ有機的に見せていた。
その学校にはプールがある。
深いプールだ。
これもまた古いものらしいが、
掃除を定期的に行うため、
それなりに見れるプールだ。
25メートルの普通のプール。
プールの上に屋根はない。
水泳をおもにするためのプールだ。
その学校の水泳部が、
ある暑い日に練習をしていた。
シャワーを浴びて、腰を洗って、
焼けたコンクリートの上で準備体操。
塩素の効いたプールで泳ぐ。
のびのびと水泳部が泳ぐ。
ざぱざぱと水が流れる。
たまにふざけて誰かが誰かを沈めにかかる。
ふざけているから、程度が知れている。
でも、そこで何かが起こった。
「ぷふぁ!」
沈められた誰かが、浮かび上がってきて不思議そうな顔をする。
「潜水のセンスあるんじゃねぇ?」
「センスはともかく、なんか変だ」
「変?」
「もぐってみろよ、なんか変だから」
「なんだなんだ?」
水泳部員がもぐりだす。
そこで見たのは、流れ。
静かな25メートルプールに、
明らかな流れが出来ている。
プールの中で流れは軽い渦を巻き、
プールの機械が管理している流れとは、明らかに違う。
学校のプールはこんな流れは起きない。
「なんか変だろ?」
次々浮かび上がってくる水泳部員が首をひねる。
やがて、流れが上までやってくる。
それは、海の波によく似た現象だ。
「機械が壊れてるんじゃね?」
「壊れてても派手に波があがってるとおもわね?」
「俺、思ったんだけど」
「なんだ?」
「海のにおいしないか?塩素のにおいじゃなくて」
「海の?」
「潮のにおいって言うか、そんなの」
「言われてみれば…」
水泳部はざばざばとプールから上がる。
そしてプールを改めて見る。
そこには小さな海が波を立てていた。
「海になっちまったのかな」
「どうしたらいいのかな」
「わかんねーよ」
水泳部員は困惑した。