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第358話 水泳

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


その町には学校がある。

コンクリートの古い校舎だ。

今にも崩れるほどではないが、

怪獣のように無駄に大きくて、

ぱっと見、ひびらしいものが見える。

長年の雨水がなでて、ひびを余計はっきりさせていく。

それが余計その学校を無機質かつ有機的に見せていた。


その学校にはプールがある。

深いプールだ。

これもまた古いものらしいが、

掃除を定期的に行うため、

それなりに見れるプールだ。

25メートルの普通のプール。

プールの上に屋根はない。

水泳をおもにするためのプールだ。


その学校の水泳部が、

ある暑い日に練習をしていた。

シャワーを浴びて、腰を洗って、

焼けたコンクリートの上で準備体操。

塩素の効いたプールで泳ぐ。

のびのびと水泳部が泳ぐ。

ざぱざぱと水が流れる。

たまにふざけて誰かが誰かを沈めにかかる。

ふざけているから、程度が知れている。

でも、そこで何かが起こった。


「ぷふぁ!」

沈められた誰かが、浮かび上がってきて不思議そうな顔をする。

「潜水のセンスあるんじゃねぇ?」

「センスはともかく、なんか変だ」

「変?」

「もぐってみろよ、なんか変だから」

「なんだなんだ?」

水泳部員がもぐりだす。

そこで見たのは、流れ。

静かな25メートルプールに、

明らかな流れが出来ている。

プールの中で流れは軽い渦を巻き、

プールの機械が管理している流れとは、明らかに違う。

学校のプールはこんな流れは起きない。


「なんか変だろ?」

次々浮かび上がってくる水泳部員が首をひねる。

やがて、流れが上までやってくる。

それは、海の波によく似た現象だ。

「機械が壊れてるんじゃね?」

「壊れてても派手に波があがってるとおもわね?」

「俺、思ったんだけど」

「なんだ?」

「海のにおいしないか?塩素のにおいじゃなくて」

「海の?」

「潮のにおいって言うか、そんなの」

「言われてみれば…」


水泳部はざばざばとプールから上がる。

そしてプールを改めて見る。

そこには小さな海が波を立てていた。


「海になっちまったのかな」

「どうしたらいいのかな」

「わかんねーよ」

水泳部員は困惑した。

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