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第357話 白紙

斜陽街番外地、落ち物通り。

色とりどりの魚のシキは、ふよふよと飛んでいた。

「やや?」

シキは落ち物通りの入り口で、

妙なものを見つけた。

それは、真っ白の本だ。

文庫サイズよりは大きいが、

絵本サイズほど大きくない。

ふよふよ飛んでいって、あたりを見回す。

「あら、お魚さん」

上から声がする。

落ち物通りの入り口に頭と右手が生えている、

スキンヘッドのマネキンだ。

「本、だな」

「ええ、あたしがぼんやりしてたら、誰か落としていったみたい」

落ち物通りは何かを落としていく通り。

スキンヘッドのマネキンは、落ち物通りの入り口で注意をしてくれる。

これ以上進むと何かを落としてしまう、と。

この本は入り口に落ちている。

落ち物通りの属性で落ちたものではない。

もしかしたら、不意に現れたものかもしれない。


「さてさてどんな本だろうな」

シキがひれを使って本のページをめくる。

ぱらぱらぱら。

めくってもめくっても白紙。

「なんだこりゃ、真っ白じゃないか」

表紙同様真っ白の本。

白紙の続く本だ。

どこまでも白紙。最初から最後まで。

表紙も裏表紙も背表紙も。

ただ、紙でできていることは間違いないらしい。

特別いい紙でもない。

悪い紙でもない。

普通の白紙のようだ。

シキは本を閉じた。

パンと軽い音がする。


「どうしたものかな」

シキはマネキンに尋ねる。

「そうねぇ、持ち主がいないなら…」

「いないなら?」

「何か書いてもらっちゃえば?」

「書いてもらう?」

「そうよ、斜陽街には変人が多いらしいし、落書きでもいいわよ」

「そりゃ面白いな」

「あたしはここから動けないから、お魚さんが持っていくといいわ」

「おう、まかしとけ」

シキはひょいと真っ白の本を頭に乗せた。

バランスをとって、ふよふよ浮かぶ。

「それじゃ、ちょっといってくらぁ」

「いってらっしゃーい」

スキンヘッドのマネキンが、右手をひらひらと振った。

シキはふよふよと飛ぶ。


シキは想像する。

自分が色を得たように、この本も何か書かれるだろうか。

それは一体どんな色彩だろうか。


シキは本を頭に乗せて、ふよふよと斜陽街を飛んだ。

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