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第354話 戦士

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


羅刹は戦っていた。

足場の悪いそこで、羅刹は黒いボウガンを構える。

相手はひるむことなく、飛び込んで刀を振る。

羅刹は飛びのく。

水気の多い足場で、しぶきが飛ぶ。

足場が悪くて、狙いが定めにくい。

その上相手はこの足場をものともしないパワーを持っている。

(不利だな)

羅刹は心でぼやく。

相手が踏み込んでくる。

羅刹はステップでかわす。

あの刀は恐ろしいほど切れると見た。

その上、羅刹だからわかるが、

何かを封じているように見える。

(これ以上があるのか)

羅刹は足場を定める。

息が荒い。


「お前」

相手が声をかける。

「本気ではないだろう」

羅刹はサングラスをかけた目を細める。

こんなに早くばれるとは思っていなかった。

「僕は戦士じゃないんです」

羅刹はボウガンの露を払う。

相手も刀の露を振り落とす。

「頼まれたから、か?」

「ここいらをねぐらにしている戦士とやらを倒してくれ」

「それでお前は?」

「僕は生きる気力を糧にしています。それ次第では殺しますと」

「あいつらはなんていった?」

羅刹は肩をすくめた。

「本気にしてくれませんでした。金ならいくら欲しいとかって」

相手はくっくっくと笑った。

「僕は戦士じゃなくて羅刹です。生きる気力で殺します」

「それで、殺せそうか?」

「生きる気力が得られないんじゃ、ただ働きです。手抜きです」

「あいつらから奪ってくればいいじゃないか」

「殺意のない生きる気力は、アルコールのないお酒です」

「そりゃまずい」

「ただ働きなので、手を抜いてました」

「そうか、お前にとってはそうなのか」

相手は刀を鞘に納めた。


「俺は戦うことが好きなんだ」

「糧ですか?」

「理由だ」

「戦うと何が得られますか?」

「わからん」

羅刹は理解できない。

羅刹にとっては戦いは、生きる気力を得るビジネスに近い。

なにも、わからんといえるほど何も得られないのに戦うのは、

羅刹には理解できない。


「俺は戦士、俺は武士(もののふ)」

相手はため息をついた。

「理由はそれで十分だ」

その目は凶暴なほどに澄んでいた。

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