これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
羅刹は戦っていた。
足場の悪いそこで、羅刹は黒いボウガンを構える。
相手はひるむことなく、飛び込んで刀を振る。
羅刹は飛びのく。
水気の多い足場で、しぶきが飛ぶ。
足場が悪くて、狙いが定めにくい。
その上相手はこの足場をものともしないパワーを持っている。
(不利だな)
羅刹は心でぼやく。
相手が踏み込んでくる。
羅刹はステップでかわす。
あの刀は恐ろしいほど切れると見た。
その上、羅刹だからわかるが、
何かを封じているように見える。
(これ以上があるのか)
羅刹は足場を定める。
息が荒い。
「お前」
相手が声をかける。
「本気ではないだろう」
羅刹はサングラスをかけた目を細める。
こんなに早くばれるとは思っていなかった。
「僕は戦士じゃないんです」
羅刹はボウガンの露を払う。
相手も刀の露を振り落とす。
「頼まれたから、か?」
「ここいらをねぐらにしている戦士とやらを倒してくれ」
「それでお前は?」
「僕は生きる気力を糧にしています。それ次第では殺しますと」
「あいつらはなんていった?」
羅刹は肩をすくめた。
「本気にしてくれませんでした。金ならいくら欲しいとかって」
相手はくっくっくと笑った。
「僕は戦士じゃなくて羅刹です。生きる気力で殺します」
「それで、殺せそうか?」
「生きる気力が得られないんじゃ、ただ働きです。手抜きです」
「あいつらから奪ってくればいいじゃないか」
「殺意のない生きる気力は、アルコールのないお酒です」
「そりゃまずい」
「ただ働きなので、手を抜いてました」
「そうか、お前にとってはそうなのか」
相手は刀を鞘に納めた。
「俺は戦うことが好きなんだ」
「糧ですか?」
「理由だ」
「戦うと何が得られますか?」
「わからん」
羅刹は理解できない。
羅刹にとっては戦いは、生きる気力を得るビジネスに近い。
なにも、わからんといえるほど何も得られないのに戦うのは、
羅刹には理解できない。
「俺は戦士、俺は武士(もののふ)」
相手はため息をついた。
「理由はそれで十分だ」
その目は凶暴なほどに澄んでいた。