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第353話 電車

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


電線がいくつものびている古い町だ。

コンクリート特有のかたさのない、あたたかな町だ。

道路には浅い溝が掘られ、

その上を路面電車が、ちんちんと走っていく。

この町の路面電車は、カフェをかねているものがある。

ちんちんと鳴りながら、町をめぐるちょっと大きな路面電車は、

観光にもよし、地元の足にもよし、暇つぶしにもよしと評判がよかった。


カフェでピザを食べている男が二人がいる。

Sサイズのピザを、男二人で分けて、

もぐもぐして、コーヒーで流し込んでいる。

「ひまだな」

男の一人がつぶやく。

黒髪をつんつんに上に立てた男だ。

「そう簡単に仕事があるわけじゃないだろ」

たしなめるもう一人の男は、茶髪の優男だ。

「正義のヒーローになりたいよな」

「かつあげ犯を半殺しにするのが正義か?」

「…やりすぎたと思ってるけどよー」

「まぁ、能力を使わなかっただけいいか」

「そう、いいのいいの」

「何度俺たちが警察のお世話になったと思ってるんだ」

「まぁ、食え食え」

つんつん頭の男がピザをすすめる。

優男はため息をついた。


ちんちん。

軽い音を立てて路面電車が止まる。

誰かが乗り込んできた。

「へぇ、面白いな。路面電車がカフェだなんて」

「兎茶屋さんに噂を聞いたんです。探偵さんも気に入るかなって」

「いい助手を持ったよ」

探偵と呼ばれた男が席につき、メニューを広げる。

助手と呼ばれたほうは、席に着くと、動き出した外を見ている。

「とりあえずミックスピザ。それと紅茶2つ」

探偵は淡々と注文する。

そして、ふと男たちと目が合う。


「ワタル、あいつ探偵だってよ」

「ヒビキ、声がでかい」

つんつん頭のヒビキはなんとなく落ち着かなくなり、

優男のワタルは大きくため息をついた。


探偵はヒビキとワタルをじっと見ている。

「どうしました?」

「あいつら、そのうちヒーローになる気がする」

「いつもの勘ですか?」

「そういうこった。さ、食べるか」

おいしそうなピザを前にして、探偵はにんまり笑った。


路面電車はちんちんと走っている。

そんな町の話。

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