これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
電線がいくつものびている古い町だ。
コンクリート特有のかたさのない、あたたかな町だ。
道路には浅い溝が掘られ、
その上を路面電車が、ちんちんと走っていく。
この町の路面電車は、カフェをかねているものがある。
ちんちんと鳴りながら、町をめぐるちょっと大きな路面電車は、
観光にもよし、地元の足にもよし、暇つぶしにもよしと評判がよかった。
カフェでピザを食べている男が二人がいる。
Sサイズのピザを、男二人で分けて、
もぐもぐして、コーヒーで流し込んでいる。
「ひまだな」
男の一人がつぶやく。
黒髪をつんつんに上に立てた男だ。
「そう簡単に仕事があるわけじゃないだろ」
たしなめるもう一人の男は、茶髪の優男だ。
「正義のヒーローになりたいよな」
「かつあげ犯を半殺しにするのが正義か?」
「…やりすぎたと思ってるけどよー」
「まぁ、能力を使わなかっただけいいか」
「そう、いいのいいの」
「何度俺たちが警察のお世話になったと思ってるんだ」
「まぁ、食え食え」
つんつん頭の男がピザをすすめる。
優男はため息をついた。
ちんちん。
軽い音を立てて路面電車が止まる。
誰かが乗り込んできた。
「へぇ、面白いな。路面電車がカフェだなんて」
「兎茶屋さんに噂を聞いたんです。探偵さんも気に入るかなって」
「いい助手を持ったよ」
探偵と呼ばれた男が席につき、メニューを広げる。
助手と呼ばれたほうは、席に着くと、動き出した外を見ている。
「とりあえずミックスピザ。それと紅茶2つ」
探偵は淡々と注文する。
そして、ふと男たちと目が合う。
「ワタル、あいつ探偵だってよ」
「ヒビキ、声がでかい」
つんつん頭のヒビキはなんとなく落ち着かなくなり、
優男のワタルは大きくため息をついた。
探偵はヒビキとワタルをじっと見ている。
「どうしました?」
「あいつら、そのうちヒーローになる気がする」
「いつもの勘ですか?」
「そういうこった。さ、食べるか」
おいしそうなピザを前にして、探偵はにんまり笑った。
路面電車はちんちんと走っている。
そんな町の話。