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第352話 学校

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

どこかの扉の向こうの世界の物語。


朝が来た。

女子高生のハナは目覚ましの音に飛び起き、

身支度をちゃっちゃと整える。

今日も学校。

いつもの学校。

小さな弟ももぞもぞと起き出す。

「はい、ご飯食べて!歯磨きして!」

ハナが次々と指示を出す。

弟はムームーいいながら指示をこなしていく。


準備を整え、戸締りもして、

ハナと弟の乗った自転車が飛び出していく。

「ぶーん!ぶーん!」

弟がおぼえたての言葉で何かを求める。

「よし、ぶーんね」

ハナはそれがわかる。

大きな下りの坂道を、すごいスピードでブレーキなしで滑り降りていく。

「ぶーん!」

弟はきゃっきゃとはしゃぐ。


やがて学校の近くで、

ハナは友人に会う。

アキという女子高生だ。

「おはよー、アキ」

「おはよう」

「今日もコンビニ弁当?」

「うん」

「自分で作ったほうがおいしいって」

「めんどう」

アキはこういうところが、めんどくさがりで、

そのくせ何かに首を突っ込むようで、

そのうち学校を飛び出していくんじゃないかと思えた。

「ハナは今日も弟さんと?」

「ぶーん!」

「そう、ぶーんしたの」

アキが微笑む。

弟はにんまり笑う。

「コンビニどこにする?」

「タケダさんとこでいいや」

「あたしも飲み物買ってくかな」

話しながら二人は学校に向かう。

コンクリートの大きな塊のような学校が見える。

古い学校らしい。

そのうち建て直すという噂もあるが、

アキやハナのいる間はきっとこのままだろう。

崩れそうではないけれど、地震にはきっと弱い。

そのくせ生徒なんかを飲み込んでいくような、

コンクリートの古ぼけた、生き物のような学校。

何が生きているわけでもない。

ただ、そんな風に見える。

「なんかおばけみたいだよね」

ハナが自転車を押しながらつぶやく。

「コンクリートの怪獣みたいな」

アキも同意する。

「わかる?」

「わかる」

「がおー」

二人のうなずきあったところに、

弟が鳴き声をはさむ。

二人して顔を見合わせると、笑い出した。

学校にいつものように通う、そんな町の話。

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