これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
朝が来た。
女子高生のハナは目覚ましの音に飛び起き、
身支度をちゃっちゃと整える。
今日も学校。
いつもの学校。
小さな弟ももぞもぞと起き出す。
「はい、ご飯食べて!歯磨きして!」
ハナが次々と指示を出す。
弟はムームーいいながら指示をこなしていく。
準備を整え、戸締りもして、
ハナと弟の乗った自転車が飛び出していく。
「ぶーん!ぶーん!」
弟がおぼえたての言葉で何かを求める。
「よし、ぶーんね」
ハナはそれがわかる。
大きな下りの坂道を、すごいスピードでブレーキなしで滑り降りていく。
「ぶーん!」
弟はきゃっきゃとはしゃぐ。
やがて学校の近くで、
ハナは友人に会う。
アキという女子高生だ。
「おはよー、アキ」
「おはよう」
「今日もコンビニ弁当?」
「うん」
「自分で作ったほうがおいしいって」
「めんどう」
アキはこういうところが、めんどくさがりで、
そのくせ何かに首を突っ込むようで、
そのうち学校を飛び出していくんじゃないかと思えた。
「ハナは今日も弟さんと?」
「ぶーん!」
「そう、ぶーんしたの」
アキが微笑む。
弟はにんまり笑う。
「コンビニどこにする?」
「タケダさんとこでいいや」
「あたしも飲み物買ってくかな」
話しながら二人は学校に向かう。
コンクリートの大きな塊のような学校が見える。
古い学校らしい。
そのうち建て直すという噂もあるが、
アキやハナのいる間はきっとこのままだろう。
崩れそうではないけれど、地震にはきっと弱い。
そのくせ生徒なんかを飲み込んでいくような、
コンクリートの古ぼけた、生き物のような学校。
何が生きているわけでもない。
ただ、そんな風に見える。
「なんかおばけみたいだよね」
ハナが自転車を押しながらつぶやく。
「コンクリートの怪獣みたいな」
アキも同意する。
「わかる?」
「わかる」
「がおー」
二人のうなずきあったところに、
弟が鳴き声をはさむ。
二人して顔を見合わせると、笑い出した。
学校にいつものように通う、そんな町の話。