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第348話 花々

斜陽街一番街。電脳中心。


電脳娘々は、腰痛に悩んでいた。

電脳の中ではどこでも行ける。

ハッキングだってなんだってできる。

でも、生身の身体はそうはいかない。

食べ物食べないといけないし、

何より座りっぱなしだと、腰痛がひどい。

肩こりもひどい気がする。

サイボーグか何かになればいいだろうか。

電脳娘々はそれを打ち消す。

生身と電脳の間だから楽しいのだ。

電脳に全てを使う気は、今のところない。

それでも腰痛は困る。

電脳娘々は、大きくため息をつき、

腰痛に顔をしかめた。


電脳中心の扉が開かれる。

「電脳娘々さん、います?」

薬師だ。

「いるよー」

電脳娘々は、店の奥からやってきた。

「腰痛のお薬調合してきました」

薬師が器を取り出す。

どうやら今度は軟膏らしい。

「これを塗るの?」

「はい、害のあるものを取り込んでしまう作用があります」

「へぇ…」

電脳娘々は、器を手に取りしげしげ眺める。

「花術師さんの新作の花を使ってるんですよ」

「そりゃすごそう」

「花術師さんは、その花をあちこちにばら撒いてくれる人を雇ったとか」

「結構いろいろやってるのね」

「そうらしいですよ、軟膏塗ります?」

「そうね、お願いするわ」


薬師は軟膏の器を開く。

あふれ出るかぐわしい花の匂い。

電脳娘々が、背中と腰をあらわにする。

女同士だからできることだ。

薬師が、軟膏をぺたぺたと塗る。

電脳娘々は目を閉じて、快感に近い感覚を得る。

スーッと何かが引いていく。

楽になってくる。

店の中は花の香りが漂っている。

名前はわからないが、気持ちまで楽になっていく気がした。


「はい、こんなものでしょう」

薬師が、パンと背中を叩く。

電脳娘々は服をまた着る。

伸びをする。心地いい。

「ありがとう」

「いえいえ、仕事ですから」

「それじゃこの軟膏、ひどくなったら塗ればいいの?」

「そうですね、それから、お風呂に入った後も塗るといいです」

「いつもいつもありがと」

「薬を作るのが仕事ですから」

薬師は誇らしげに胸を張った。


薬師と電脳娘々は話をする。

バーからもらったお酒がまんぷく食堂に行ったこと。

結局もったいなくて、おじいさんは飲んでいないこと。

女二人のたわいない話は、

尽きることなく続いた。

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