斜陽街一番街。電脳中心。
電脳娘々は、腰痛に悩んでいた。
電脳の中ではどこでも行ける。
ハッキングだってなんだってできる。
でも、生身の身体はそうはいかない。
食べ物食べないといけないし、
何より座りっぱなしだと、腰痛がひどい。
肩こりもひどい気がする。
サイボーグか何かになればいいだろうか。
電脳娘々はそれを打ち消す。
生身と電脳の間だから楽しいのだ。
電脳に全てを使う気は、今のところない。
それでも腰痛は困る。
電脳娘々は、大きくため息をつき、
腰痛に顔をしかめた。
電脳中心の扉が開かれる。
「電脳娘々さん、います?」
薬師だ。
「いるよー」
電脳娘々は、店の奥からやってきた。
「腰痛のお薬調合してきました」
薬師が器を取り出す。
どうやら今度は軟膏らしい。
「これを塗るの?」
「はい、害のあるものを取り込んでしまう作用があります」
「へぇ…」
電脳娘々は、器を手に取りしげしげ眺める。
「花術師さんの新作の花を使ってるんですよ」
「そりゃすごそう」
「花術師さんは、その花をあちこちにばら撒いてくれる人を雇ったとか」
「結構いろいろやってるのね」
「そうらしいですよ、軟膏塗ります?」
「そうね、お願いするわ」
薬師は軟膏の器を開く。
あふれ出るかぐわしい花の匂い。
電脳娘々が、背中と腰をあらわにする。
女同士だからできることだ。
薬師が、軟膏をぺたぺたと塗る。
電脳娘々は目を閉じて、快感に近い感覚を得る。
スーッと何かが引いていく。
楽になってくる。
店の中は花の香りが漂っている。
名前はわからないが、気持ちまで楽になっていく気がした。
「はい、こんなものでしょう」
薬師が、パンと背中を叩く。
電脳娘々は服をまた着る。
伸びをする。心地いい。
「ありがとう」
「いえいえ、仕事ですから」
「それじゃこの軟膏、ひどくなったら塗ればいいの?」
「そうですね、それから、お風呂に入った後も塗るといいです」
「いつもいつもありがと」
「薬を作るのが仕事ですから」
薬師は誇らしげに胸を張った。
薬師と電脳娘々は話をする。
バーからもらったお酒がまんぷく食堂に行ったこと。
結局もったいなくて、おじいさんは飲んでいないこと。
女二人のたわいない話は、
尽きることなく続いた。