斜陽街番外地。探偵事務所。
眼鏡のあれやこれやをしている間に、
探偵は暇をもてあまして居眠りした。
ぐうぐう眠っている探偵の湯飲みを、
助手は奥に行って片付けた。
探偵は夢を見た。
顔のないもの、目の見えないもの。
顔のないのは天使だろうか。
どこかで羽ばたいている。
そのたびに鈴が鳴る。
なぜ天使と鈴なのか、探偵はわからない。
目の見えない者が立っている。
鈴は多分癒しの音色で、
目の見えないものに癒しを与えているのだ。
探偵は似合わない眼鏡をかけた。
目の見えないものはこちらを見ると、
女性と猫に変わった。
猫は探偵の足元をくぐると、どこかに行った。
女性は…この女性は危険だ。
探偵の勘が、警鐘を鳴らす。
起きろ!起きろ!
探偵は、ようやく目が覚めた。
嫌な汗をかいた気がする。
危険な女性。
探偵は思い出す。
探偵にとって危険な女性といえば、
占い屋のマダムだ。
泣きぼくろはあっただろうか。
目覚めた今となってはわからない。
かといって、また同じ夢を見る気もない。
探偵は大きくため息をついた。
「冷たいお茶を入れますか?」
助手が聞いて来る。
「ああ、たのむ」
探偵はどっかり椅子に座った。
目のないもの、目が見えないもの。
盲目というべきだろうか。
それでも、見えているのだ。
どんなに盲目になろうとも、
多分一番見たいものが見えている。
しばらくして、助手がお茶を持って奥からやってくる。
「何か悪い夢でも見ましたか?」
助手だけあり、それなりの勘はあるようだ。
探偵はうなずく。
「目の見えないものの夢だった気がするよ」
「目の見えない」
「それでも大事なものは見えているのさ」
「わかりません、そういう夢だったのですか?」
「そういう夢さ」
探偵は茶を飲む。
夢の記憶も一緒に流し込む。
占い屋のマダムを思い出す。
以前変わり者とされて、コレクションされかけた記憶。
危険な記憶だ。
コレクションにも意味があるとしたら。
盲目に見えるほど執着していたら。
きっとそういう意味があるのだろう。
探偵には理解がしがたいし、
勘では、うかつに近寄ると危険と出ている。
「何があったんだろうなぁ…」
探偵はぼやいた。
「わかりませんよ」
助手が返して、また、だらだらと探偵事務所の時間は流れた。