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第347話 盲目

斜陽街番外地。探偵事務所。

眼鏡のあれやこれやをしている間に、

探偵は暇をもてあまして居眠りした。

ぐうぐう眠っている探偵の湯飲みを、

助手は奥に行って片付けた。


探偵は夢を見た。

顔のないもの、目の見えないもの。

顔のないのは天使だろうか。

どこかで羽ばたいている。

そのたびに鈴が鳴る。

なぜ天使と鈴なのか、探偵はわからない。

目の見えない者が立っている。

鈴は多分癒しの音色で、

目の見えないものに癒しを与えているのだ。

探偵は似合わない眼鏡をかけた。

目の見えないものはこちらを見ると、

女性と猫に変わった。

猫は探偵の足元をくぐると、どこかに行った。

女性は…この女性は危険だ。

探偵の勘が、警鐘を鳴らす。

起きろ!起きろ!


探偵は、ようやく目が覚めた。

嫌な汗をかいた気がする。

危険な女性。

探偵は思い出す。

探偵にとって危険な女性といえば、

占い屋のマダムだ。

泣きぼくろはあっただろうか。

目覚めた今となってはわからない。

かといって、また同じ夢を見る気もない。

探偵は大きくため息をついた。


「冷たいお茶を入れますか?」

助手が聞いて来る。

「ああ、たのむ」

探偵はどっかり椅子に座った。

目のないもの、目が見えないもの。

盲目というべきだろうか。

それでも、見えているのだ。

どんなに盲目になろうとも、

多分一番見たいものが見えている。


しばらくして、助手がお茶を持って奥からやってくる。

「何か悪い夢でも見ましたか?」

助手だけあり、それなりの勘はあるようだ。

探偵はうなずく。

「目の見えないものの夢だった気がするよ」

「目の見えない」

「それでも大事なものは見えているのさ」

「わかりません、そういう夢だったのですか?」

「そういう夢さ」

探偵は茶を飲む。

夢の記憶も一緒に流し込む。


占い屋のマダムを思い出す。

以前変わり者とされて、コレクションされかけた記憶。

危険な記憶だ。

コレクションにも意味があるとしたら。

盲目に見えるほど執着していたら。

きっとそういう意味があるのだろう。

探偵には理解がしがたいし、

勘では、うかつに近寄ると危険と出ている。


「何があったんだろうなぁ…」

探偵はぼやいた。

「わかりませんよ」

助手が返して、また、だらだらと探偵事務所の時間は流れた。

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