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第345話 夜這

鳥篭屋は、斜陽街の番外地あたりを歩いていた。

先ほど鈴の持ち主に返し、

鈴の音色の入ったテープを、どうしようかと思っているところだ。

「電脳娘々は、祝福って言ったかね」

鳥篭屋は独り言を言うと、あたりを見回した。

「祝福が似合うところにあげるべきかね」

鳥篭屋は、一点に視線を合わせると、

つかつかと歩き出した。


行き先は神屋。

女神と男神がいる店だ。

鳥篭屋は扉を叩き、

「邪魔するよ」

と、つかつか入ってきた。

女神と男神は、いつものように、

女神の背と男神の腹がくっついたままである。

食べることもなければ汚れることもない。

神様だからそんなものかもしれない。

「鳥篭屋さん」

「どのようなご用件ですか?」

女神と男神がたずねる。

「このテープをあげようと思ってね」

鳥篭屋はテープを取り出す。

「テープ?」

女神が問う。

「何でも、祝福の音色が入っているそうだよ」

鳥篭屋はテープを放り投げる。

男神が受け取る。

「まぁ、あんたらに、祝福が一番似あうと思っただけだよ」

女神と男神は、少し困惑している。

鳥篭屋は、笑った。

「そういうことだよ、じゃあ、邪魔したね」

鳥篭屋はつかつかと神屋をあとにすると、

扉をばたんと閉めた。


あとには、いつもの女神と男神、

そして、投げられたテープが残った。

男神がテープのフィルムを引っ張り出す。

指でなぞると、音があふれ出してくる。

しゃーん、しゃーん。

祝福の音色だ。


「夜這の音色」

女神はつぶやく。

「昔の結婚を祝福する音色。魂を祝福する音色」

女神はなんとなくわかるようだ。

つながっている男神にも、感覚が伝わる。

「宿るものを祝福するんだね」

「そう、命を祝福するの」

男神は女神を抱きしめた。

テープは不思議な力で二人を囲んで浮かんでいる。

浮かんだテープからは、

祝福の鈴の音が繰り返し鳴っている。


夜這の音色はとめどなく、

つながる神を祝福する。

特別に何かを支配する神でなく、

ただ、そこにある幸せな神々を祝福する。

テープは舞う。

鈴の音色を鳴らしながら。

異世界からきた鈴の音は、

こうして本来の祝福を与えるにいたった。

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