鳥篭屋は、斜陽街の番外地あたりを歩いていた。
先ほど鈴の持ち主に返し、
鈴の音色の入ったテープを、どうしようかと思っているところだ。
「電脳娘々は、祝福って言ったかね」
鳥篭屋は独り言を言うと、あたりを見回した。
「祝福が似合うところにあげるべきかね」
鳥篭屋は、一点に視線を合わせると、
つかつかと歩き出した。
行き先は神屋。
女神と男神がいる店だ。
鳥篭屋は扉を叩き、
「邪魔するよ」
と、つかつか入ってきた。
女神と男神は、いつものように、
女神の背と男神の腹がくっついたままである。
食べることもなければ汚れることもない。
神様だからそんなものかもしれない。
「鳥篭屋さん」
「どのようなご用件ですか?」
女神と男神がたずねる。
「このテープをあげようと思ってね」
鳥篭屋はテープを取り出す。
「テープ?」
女神が問う。
「何でも、祝福の音色が入っているそうだよ」
鳥篭屋はテープを放り投げる。
男神が受け取る。
「まぁ、あんたらに、祝福が一番似あうと思っただけだよ」
女神と男神は、少し困惑している。
鳥篭屋は、笑った。
「そういうことだよ、じゃあ、邪魔したね」
鳥篭屋はつかつかと神屋をあとにすると、
扉をばたんと閉めた。
あとには、いつもの女神と男神、
そして、投げられたテープが残った。
男神がテープのフィルムを引っ張り出す。
指でなぞると、音があふれ出してくる。
しゃーん、しゃーん。
祝福の音色だ。
「夜這の音色」
女神はつぶやく。
「昔の結婚を祝福する音色。魂を祝福する音色」
女神はなんとなくわかるようだ。
つながっている男神にも、感覚が伝わる。
「宿るものを祝福するんだね」
「そう、命を祝福するの」
男神は女神を抱きしめた。
テープは不思議な力で二人を囲んで浮かんでいる。
浮かんだテープからは、
祝福の鈴の音が繰り返し鳴っている。
夜這の音色はとめどなく、
つながる神を祝福する。
特別に何かを支配する神でなく、
ただ、そこにある幸せな神々を祝福する。
テープは舞う。
鈴の音色を鳴らしながら。
異世界からきた鈴の音は、
こうして本来の祝福を与えるにいたった。