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第344話 客人

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

三日月模様の描かれた扉の向こうの世界の物語。


時間のよくわからない兎茶屋の中、

家具屋入道とレンタルビデオ屋、

そして、兎茶屋の店主の青年がお茶をしている。

さまざまのお茶を試しては、

感想を述べたりしている。

青年はそれなりに研究をしているらしい。

感想をもらっては、ノートらしいものに書き付けている。

「そのノートは?」

レンタルビデオ屋が尋ねる。

「ブレンド参考資料です。感想をもとにして、割合を考えるのです」

「研究熱心ですね」

「そう言われると、うれしいです」

青年は、さささっと書き連ねる。

「さて、拙僧はまだ片づけがある」

家具屋入道が立ち上がる。

「お客は、まだ来そうだから、表は後回しでお願いするよ」

「うむ」

家具屋入道は、ごつごつと足音を立てて、奥のほうに行った。

レンタルビデオ屋は見送ると、

「やっぱりわかるものですか?」

と、青年に尋ねた。

「お客が来る来ないは、結構わかるものですよ」

青年は答えて、お茶の準備を始める。

「斜陽街にもその手のがわかる人がいましてね、扉屋さんとか」

レンタルビデオ屋は、そう言って、お茶をすする。

「やっぱり扉屋さん経由で来ましたか?」

青年は、お湯を沸かす。

「扉屋さん経由しか知らないんですよ」

レンタルビデオ屋は、頭をかく。

「そうでないお客もいるものです。まもなく来ますよ」

青年は、扉を指差した。

すると、扉は開き、少女が三人やってきた。

「いらっしゃいませ」

青年は、にっこり微笑みかける。

「噂はほんとだったのね」

「結構いい感じ」

「すごい数のお茶ね」

少女達はわいわい騒ぐ。

「テーブルのほうへどうぞ。ただいま、おすすめのお茶をお入れ致します」

少女達はきゃっきゃとはしゃぎながら席に着く。

「かもめ、すごいよね。こんなところほんとにあるんだね」

「あおいも、よくついてきたよね。迷子になるとか思わなかった?」

「あかねが引き返さないんだもん。意地でも行くと思ったよ」


レンタルビデオ屋は、苦笑いしながら少女達を見ている。

普段ホラーに囲まれているから、明るいのがまぶしい。

彼女たちからは、きらきら青春しているのを感じた。

「それじゃ、この辺で。お会計は?」

「ここのことを覚えていてください。それがお会計の代わりです」

レンタルビデオ屋はうなずき、兎茶屋をあとにした。

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