これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
三日月模様の描かれた扉の向こうの世界の物語。
時間のよくわからない兎茶屋の中、
家具屋入道とレンタルビデオ屋、
そして、兎茶屋の店主の青年がお茶をしている。
さまざまのお茶を試しては、
感想を述べたりしている。
青年はそれなりに研究をしているらしい。
感想をもらっては、ノートらしいものに書き付けている。
「そのノートは?」
レンタルビデオ屋が尋ねる。
「ブレンド参考資料です。感想をもとにして、割合を考えるのです」
「研究熱心ですね」
「そう言われると、うれしいです」
青年は、さささっと書き連ねる。
「さて、拙僧はまだ片づけがある」
家具屋入道が立ち上がる。
「お客は、まだ来そうだから、表は後回しでお願いするよ」
「うむ」
家具屋入道は、ごつごつと足音を立てて、奥のほうに行った。
レンタルビデオ屋は見送ると、
「やっぱりわかるものですか?」
と、青年に尋ねた。
「お客が来る来ないは、結構わかるものですよ」
青年は答えて、お茶の準備を始める。
「斜陽街にもその手のがわかる人がいましてね、扉屋さんとか」
レンタルビデオ屋は、そう言って、お茶をすする。
「やっぱり扉屋さん経由で来ましたか?」
青年は、お湯を沸かす。
「扉屋さん経由しか知らないんですよ」
レンタルビデオ屋は、頭をかく。
「そうでないお客もいるものです。まもなく来ますよ」
青年は、扉を指差した。
すると、扉は開き、少女が三人やってきた。
「いらっしゃいませ」
青年は、にっこり微笑みかける。
「噂はほんとだったのね」
「結構いい感じ」
「すごい数のお茶ね」
少女達はわいわい騒ぐ。
「テーブルのほうへどうぞ。ただいま、おすすめのお茶をお入れ致します」
少女達はきゃっきゃとはしゃぎながら席に着く。
「かもめ、すごいよね。こんなところほんとにあるんだね」
「あおいも、よくついてきたよね。迷子になるとか思わなかった?」
「あかねが引き返さないんだもん。意地でも行くと思ったよ」
レンタルビデオ屋は、苦笑いしながら少女達を見ている。
普段ホラーに囲まれているから、明るいのがまぶしい。
彼女たちからは、きらきら青春しているのを感じた。
「それじゃ、この辺で。お会計は?」
「ここのことを覚えていてください。それがお会計の代わりです」
レンタルビデオ屋はうなずき、兎茶屋をあとにした。