どこかの扉の向こう。
斜陽街でないどこか。
金魚売りがいる。
縁日や、お祭りのときに、ひょっこり現れ、
金魚を売っている。
幸福の金魚売りという噂もある。
その金魚を大事に飼うと、
幸せになるという噂だ。
はたして、雑然としたお祭りの中で、
金魚売りを見つけ出せるか。
出会えただけで幸せなのかもしれない。
金魚売りは、いつものように縁日にやってきた。
気がつく人は少ない。
特に金魚を目指す人も少ないのかもしれない。
そんななか、子どもが一人やってきた。
べそをかいた幼い子だ。
迷子なのかもしれない。
「ぼっちゃん」
金魚売りが声をかける。
べそかきは、金魚売りに気がついた。
「きれいな金魚をあげよう。すぐにお迎えが来るからね」
べそかきは、ぐちゃぐちゃの顔のまま、
金魚売りの店へとやってきた。
「変わったのがいいかい?きらきらしたのがいいかい?」
金魚売りは、優しく甲高い声でべそかきをあやす。
「すくってみるかい?」
べそかきは、促されるまま、使い捨て網を手にした。
べそかきはきらきらした金魚を狙う。
ひょい!
とった!
「やあ、おめでとう」
べそかきは、目がまん丸になる。
「取れた記念にこれもあげるよ。金魚器と、鈴なりの実だ」
金魚売りは、金魚を器に入れると、
鈴なりの実をべそかきにかけてあげた。
「鳴らしてごらん、君を探している人が来るはずだよ」
べそかきは、もう、涙が引っ込んでいる。
意を決すると、鈴なりの実を鳴らした。
しゃーん
澄んだ音色がする。
お祭りのがやがやとした喧騒が、一気に遠くになった気がする。
喧騒が行ってしまうと、
べそかきの耳には、懐かしい声が聞こえた。
親の声だ。
不安になって必死に探している声だ。
べそかきも叫ぶ。
叫んで、鈴を鳴らし続ける。
やがて親とべそかきは合流した。
べそかきは親に逢えたことで、また、安心して泣いた。
いつの間にか金魚を持っていること、
鈴を持っていることは、誰も気にしなかった。
そこにあるのが当たり前だし、
お祭りに金魚がつき物だと思われた。
金魚売りは、どこかのお祭りにいるかもしれません。
時々どこかで小物を仕入れているかもしれません。
逢えたらきっと幸せがきます。