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第342話 金魚

どこかの扉の向こう。

斜陽街でないどこか。


金魚売りがいる。

縁日や、お祭りのときに、ひょっこり現れ、

金魚を売っている。

幸福の金魚売りという噂もある。

その金魚を大事に飼うと、

幸せになるという噂だ。

はたして、雑然としたお祭りの中で、

金魚売りを見つけ出せるか。

出会えただけで幸せなのかもしれない。


金魚売りは、いつものように縁日にやってきた。

気がつく人は少ない。

特に金魚を目指す人も少ないのかもしれない。

そんななか、子どもが一人やってきた。

べそをかいた幼い子だ。

迷子なのかもしれない。

「ぼっちゃん」

金魚売りが声をかける。

べそかきは、金魚売りに気がついた。

「きれいな金魚をあげよう。すぐにお迎えが来るからね」

べそかきは、ぐちゃぐちゃの顔のまま、

金魚売りの店へとやってきた。

「変わったのがいいかい?きらきらしたのがいいかい?」

金魚売りは、優しく甲高い声でべそかきをあやす。

「すくってみるかい?」

べそかきは、促されるまま、使い捨て網を手にした。

べそかきはきらきらした金魚を狙う。


ひょい!

とった!


「やあ、おめでとう」

べそかきは、目がまん丸になる。

「取れた記念にこれもあげるよ。金魚器と、鈴なりの実だ」

金魚売りは、金魚を器に入れると、

鈴なりの実をべそかきにかけてあげた。

「鳴らしてごらん、君を探している人が来るはずだよ」


べそかきは、もう、涙が引っ込んでいる。

意を決すると、鈴なりの実を鳴らした。


しゃーん


澄んだ音色がする。

お祭りのがやがやとした喧騒が、一気に遠くになった気がする。

喧騒が行ってしまうと、

べそかきの耳には、懐かしい声が聞こえた。

親の声だ。

不安になって必死に探している声だ。

べそかきも叫ぶ。

叫んで、鈴を鳴らし続ける。


やがて親とべそかきは合流した。

べそかきは親に逢えたことで、また、安心して泣いた。

いつの間にか金魚を持っていること、

鈴を持っていることは、誰も気にしなかった。

そこにあるのが当たり前だし、

お祭りに金魚がつき物だと思われた。


金魚売りは、どこかのお祭りにいるかもしれません。

時々どこかで小物を仕入れているかもしれません。

逢えたらきっと幸せがきます。

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