どこかの扉の向こう。
斜陽街でないどこか。
国を焼き尽くした戦から、
何百年も過ぎた。
世界は新しく変わろうとしていた。
猫の鳴き声で、アキ姫は目を覚ました。
年をとっていない、あのときのままだ。
「目覚めましたか」
シュバルツが声をかける。
この騎士も、あのときのままだ。
「状況は」
「火は沈黙した模様です」
「そうか」
アキ姫はベッドを降りる。
「外に出る、ついてこいシュバルツ」
シュバルツはうなずいた。
箱舟の扉を開け、
二人と猫は、外に出た。
外はどうも夜らしい。
「なんということだ」
アキ姫は、驚く。
そこは、一面の砂。
緑あふれた国の面影は、どこにもない。
砂の上に降り立つ。
きゅうと音がする。
鳴いているのだ。
たぶん、かなしいのだ。
アキ姫は数歩歩いた。
空がきらきら光っている。
星なのだろうか。
アキ姫は、砂の上に横たわった。そのまま空を見上げる。
「シュバルツ」
「はい」
「私は、いずれこの砂に埋まる」
シュバルツはだまる。
「この砂漠、空の星、この世界に私は帰る」
「はい」
「それまでは、この血を残していく。王家の血だ」
アキ姫は立ち上がる。
「私は負けない」
赤い髪がふわりと舞う。
その目は決意の火が宿っていた。
遠くから声がする。
アキ姫は帆船を認めた。
シュバルツが護るように前に立つ。
やがて船は近づき、アキ姫のもとへ何人かがやってきた。
その長らしい若い男が、前にいる。
「竜神の遺物ってのは、あんたらか?」
「私たちは箱舟で眠っていた」
「ふむ、モグラの言うとおりだな」
若い長は考える。
「この辺に、大戦時代の遺物があるって、それで来たんだ」
「そうか」
アキ姫は、シュバルツの後ろで納得する。
「あんたら、これからどうする気だい?」
「あては、ない」
「それじゃ、俺たちと砂賊にならないか?」
シュバルツが噛み付きそうに前へ出る。
アキ姫は、シュバルツを制した。
「この血を残すためなら、賊にだろうとなんだろうとなってみせる」
アキ姫は、不敵に笑った。
「ここは空気の底、俺は船長のヤドカリ」
「ヤドカリか。私はアキ。こいつはシュバルツ。それから猫が一匹だ」
空気の底で、時代は結ばれた。
空に逃げた水が、きらきら輝いていた。