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第339話 新世界

どこかの扉の向こう。

斜陽街でないどこか。


国を焼き尽くした戦から、

何百年も過ぎた。

世界は新しく変わろうとしていた。


猫の鳴き声で、アキ姫は目を覚ました。

年をとっていない、あのときのままだ。

「目覚めましたか」

シュバルツが声をかける。

この騎士も、あのときのままだ。

「状況は」

「火は沈黙した模様です」

「そうか」

アキ姫はベッドを降りる。

「外に出る、ついてこいシュバルツ」

シュバルツはうなずいた。


箱舟の扉を開け、

二人と猫は、外に出た。

外はどうも夜らしい。

「なんということだ」

アキ姫は、驚く。

そこは、一面の砂。

緑あふれた国の面影は、どこにもない。

砂の上に降り立つ。

きゅうと音がする。

鳴いているのだ。

たぶん、かなしいのだ。


アキ姫は数歩歩いた。

空がきらきら光っている。

星なのだろうか。

アキ姫は、砂の上に横たわった。そのまま空を見上げる。

「シュバルツ」

「はい」

「私は、いずれこの砂に埋まる」

シュバルツはだまる。

「この砂漠、空の星、この世界に私は帰る」

「はい」

「それまでは、この血を残していく。王家の血だ」

アキ姫は立ち上がる。

「私は負けない」

赤い髪がふわりと舞う。

その目は決意の火が宿っていた。


遠くから声がする。

アキ姫は帆船を認めた。

シュバルツが護るように前に立つ。

やがて船は近づき、アキ姫のもとへ何人かがやってきた。

その長らしい若い男が、前にいる。

「竜神の遺物ってのは、あんたらか?」

「私たちは箱舟で眠っていた」

「ふむ、モグラの言うとおりだな」

若い長は考える。

「この辺に、大戦時代の遺物があるって、それで来たんだ」

「そうか」

アキ姫は、シュバルツの後ろで納得する。

「あんたら、これからどうする気だい?」

「あては、ない」

「それじゃ、俺たちと砂賊にならないか?」

シュバルツが噛み付きそうに前へ出る。

アキ姫は、シュバルツを制した。

「この血を残すためなら、賊にだろうとなんだろうとなってみせる」

アキ姫は、不敵に笑った。


「ここは空気の底、俺は船長のヤドカリ」

「ヤドカリか。私はアキ。こいつはシュバルツ。それから猫が一匹だ」


空気の底で、時代は結ばれた。

空に逃げた水が、きらきら輝いていた。

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