どこかの扉の向こう。
斜陽街でないどこか。
歯車を持った者が、風車にやってくる。
大きな風車だ。怪物並みに大きい。
その大きな風車には、蔦葉が絡まり、
今は動いていない。
風も吹いていなく、季節が止まっているような感覚だ。
その誰かは、歯車を、一番手前に入れた。
がこん!
大きな音がする。
小さな歯車が大きな歯車を回し、
大きな歯車はメインのシステムを動かし始める。
がこっがこっ、ぎーぎー。
蔦葉も巻き込みながら、風車が動き出す。
風が吹き出す。
季節がゆっくりと回り始める。
「風のシステムも直りましたね…」
誰かはふっとその場から消えた。
風車が回りだし、
その世界は動き出す。
オルゴールで動く人形のように、
人々は起きだし、
くるくる働いて夜が来れば眠る。
牛や豚もいる、畑もある。
風が吹く。雨も降る。
風のシステムは回る。
誰も来ない大きな風車で、
一年に一個だけ、チーズが作られている。
大きな風車のシステムの中で、
ゆっくりゆっくり時間を聞いて育ったチーズだ。
どんなカビを使っているのかもわからない。
それでも、一年に一度、風車から運び出されては、
収穫祭にあわせて、皆でおいしくいただいている。
雨風の恵みに感謝して。
太陽の恵みに感謝して。
大きな風車に感謝して。
風のシステムは回り続ける。
ころころとその世界の人々が動く。
畑を耕し、牛を追い、豚を追い、
祭りもすれば、悲しみだってある。
箱庭のようでもあり、
田舎の風景によく似ている。
穏やかに風の回る、小さな世界だ。
「やっぱり、修理に出して正解でした…」
風の中に声が混じった気がした。
「腕のいいところに、かかって正解でした…」
風は満足げに風車のそばを回る。
一瞬人影らしいものに見えた気がしたが、
すぐに消えてしまった。
今年は風車はチーズを二個つくる。
一つはこの世界で食べるため、
もう一つは、歯車修理のお礼として。
この風車で一年かけて、チーズをつくる。
ゆっくり風のシステムは回る。
この世界に吹く、
風は世界を愛している。
この世界が動くことを、
風は快く思っている。
今日も風車は回っている。
人々は、ころころ働いている。