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第338話 風車

どこかの扉の向こう。

斜陽街でないどこか。


歯車を持った者が、風車にやってくる。

大きな風車だ。怪物並みに大きい。

その大きな風車には、蔦葉が絡まり、

今は動いていない。

風も吹いていなく、季節が止まっているような感覚だ。

その誰かは、歯車を、一番手前に入れた。


がこん!


大きな音がする。

小さな歯車が大きな歯車を回し、

大きな歯車はメインのシステムを動かし始める。

がこっがこっ、ぎーぎー。

蔦葉も巻き込みながら、風車が動き出す。

風が吹き出す。

季節がゆっくりと回り始める。

「風のシステムも直りましたね…」

誰かはふっとその場から消えた。


風車が回りだし、

その世界は動き出す。

オルゴールで動く人形のように、

人々は起きだし、

くるくる働いて夜が来れば眠る。

牛や豚もいる、畑もある。

風が吹く。雨も降る。


風のシステムは回る。

誰も来ない大きな風車で、

一年に一個だけ、チーズが作られている。

大きな風車のシステムの中で、

ゆっくりゆっくり時間を聞いて育ったチーズだ。

どんなカビを使っているのかもわからない。

それでも、一年に一度、風車から運び出されては、

収穫祭にあわせて、皆でおいしくいただいている。

雨風の恵みに感謝して。

太陽の恵みに感謝して。

大きな風車に感謝して。

風のシステムは回り続ける。


ころころとその世界の人々が動く。

畑を耕し、牛を追い、豚を追い、

祭りもすれば、悲しみだってある。

箱庭のようでもあり、

田舎の風景によく似ている。

穏やかに風の回る、小さな世界だ。


「やっぱり、修理に出して正解でした…」

風の中に声が混じった気がした。

「腕のいいところに、かかって正解でした…」

風は満足げに風車のそばを回る。

一瞬人影らしいものに見えた気がしたが、

すぐに消えてしまった。


今年は風車はチーズを二個つくる。

一つはこの世界で食べるため、

もう一つは、歯車修理のお礼として。

この風車で一年かけて、チーズをつくる。

ゆっくり風のシステムは回る。


この世界に吹く、

風は世界を愛している。

この世界が動くことを、

風は快く思っている。


今日も風車は回っている。

人々は、ころころ働いている。

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