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第333話 哀願

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

アルミの細工のしてある扉の向こうの物語。


真っ暗の中、ネココの手が、軽くウゲツを引っ張る。

ウゲツは引っ張られるまま、真っ暗の中を歩く。

「ここに座ろう」

ネココの声がする。

ウゲツは手探りで、席を見つける。


ブザーが鳴る。


映画が始まった。

針金座キネマの映画だそうだ。

ウゲツやネココを、映画の強い光が照らしている。

暗いのに、強烈に明かりが来ている。

まずは、近日公開の映画らしい。

何本か、映画の宣伝がされる。

竜神の器というのが、ウゲツは気になった。


やがて、本編が始まるらしい。

針金座キネマのロゴが出る。

そして、女が映し出された。

清楚な女学生、そんな古びた言葉を、ウゲツは思った。

古風な学生服、化粧気のない顔、

導き出されるのは、そんなイメージだ。

彼女には、泣きぼくろがある。

照れたように笑う端に、妖艶に成長する萌芽を覗かせていた。


次のシーンで、彼女は占いを始める。

学生を相手に、パンや何かを対価に占いをしたらしい。

当たった際に対価を受け取るようにしたらしい。

賭け事などとは無縁の、学生の遊びというものらしい。

彼女は微笑む。

艶やかさが色づいてきていた。


彼女は、針金を使い始めた。

さまざまの占いから、どうやら針金に行き着いたようだ。

そして、ある一風変わった男がやってくる。

ウゲツに違いはわからないが、

同じ学生でありながら、映画としての描き方が違う気がした。

変わった男。

ウゲツはそう感じた。


彼女の針金が落ちる。

派手な音をして、針金が散らばる。


「行かないで!」

彼女は哀願する。

「あなたの未来を…今度こそ!」

彼女は声がかれるほど叫ぶ。

「行かないで!」

描き方が変わった男は、映画にもうでてこない。

彼女だけが叫んでいる。

悲痛なほどに哀願している。


「変わった人を集めるから、そうすれば、きっとわかるから」

泣きぼくろの彼女は、妖艶に微笑む。

女としての艶やかな彩り、魅了する微笑。

美しいボディライン、そして、ばらばらになった針金。

彼女は針金を拾い集める。

「また逢いましょう」


ふっと明かりが全て消えた。



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