これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
アルミの細工のしてある扉の向こうの物語。
真っ暗の中、ネココの手が、軽くウゲツを引っ張る。
ウゲツは引っ張られるまま、真っ暗の中を歩く。
「ここに座ろう」
ネココの声がする。
ウゲツは手探りで、席を見つける。
ブザーが鳴る。
映画が始まった。
針金座キネマの映画だそうだ。
ウゲツやネココを、映画の強い光が照らしている。
暗いのに、強烈に明かりが来ている。
まずは、近日公開の映画らしい。
何本か、映画の宣伝がされる。
竜神の器というのが、ウゲツは気になった。
やがて、本編が始まるらしい。
針金座キネマのロゴが出る。
そして、女が映し出された。
清楚な女学生、そんな古びた言葉を、ウゲツは思った。
古風な学生服、化粧気のない顔、
導き出されるのは、そんなイメージだ。
彼女には、泣きぼくろがある。
照れたように笑う端に、妖艶に成長する萌芽を覗かせていた。
次のシーンで、彼女は占いを始める。
学生を相手に、パンや何かを対価に占いをしたらしい。
当たった際に対価を受け取るようにしたらしい。
賭け事などとは無縁の、学生の遊びというものらしい。
彼女は微笑む。
艶やかさが色づいてきていた。
彼女は、針金を使い始めた。
さまざまの占いから、どうやら針金に行き着いたようだ。
そして、ある一風変わった男がやってくる。
ウゲツに違いはわからないが、
同じ学生でありながら、映画としての描き方が違う気がした。
変わった男。
ウゲツはそう感じた。
彼女の針金が落ちる。
派手な音をして、針金が散らばる。
「行かないで!」
彼女は哀願する。
「あなたの未来を…今度こそ!」
彼女は声がかれるほど叫ぶ。
「行かないで!」
描き方が変わった男は、映画にもうでてこない。
彼女だけが叫んでいる。
悲痛なほどに哀願している。
「変わった人を集めるから、そうすれば、きっとわかるから」
泣きぼくろの彼女は、妖艶に微笑む。
女としての艶やかな彩り、魅了する微笑。
美しいボディライン、そして、ばらばらになった針金。
彼女は針金を拾い集める。
「また逢いましょう」
ふっと明かりが全て消えた。