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第331話 軍人

どこかの扉の向こう。

政府軍とゲリラが、熱帯雨林で戦っていた。

戦争だ。

内戦とも言うのかもしれないし、

クーデターとも言うのかもしれない。


一介の兵士は、そんなことはわからなかった。

名前を仮にジョンとする。


ジョンは兵士だ。

あまり大切に扱われない、一介の兵士だ。

ゲリラを殲滅させよ。

そう言われている、政府軍の兵士だ。

上で何が起こっているのか、わからない。

お偉いさん方は、なにやら考えているらしいが、

ジョンは銃弾の飛び交う中を生き残るので精一杯だ。


(みんな腐ってやがる)

ジョンは心で毒づく。

以前渡った河も腐ってた。

ゲリラのやつらが何か腐らせたのかもしれない。

あっちこっち、においが染み付いている。

よくわからないけれど、腐っていると思った。


政府軍の小さな拠点でジョンは眠る。

休める夢なんて見たためしがない。

腐った河は、脳髄まで腐らせるらしい。

ジョンは、剣の形をした、珍しい小型ライターを取り出す。

タグの他に、自分だといえるもの。

そのうち自分も、ただの死体になるのだろうか。

ジョンは、十字架のようなライターを抱いて泥のように眠った。


世界が燃えている。

腐った世界が燃えている。

ああ、ドラゴンだ。

悪魔のドラゴンが何匹も、

世界を燃やしてやがる。

みんな燃えちまえくそったれ!

ジョンは、夢の中で、炎の熱さを感じた。

足から焼かれ、止まることなく全身、頭もすごい速度で焼かれる。

舌の根が叫びながら燃えていくのがわかる。

くそったれ!

さけびながら、涙が蒸発していくのがわかった。


ジョンは目覚めた。

ああ、夢だったんだと感じる。

タグが首でチャラリとなった。

汗ばんだ臭い手に、十字架のようなライター。

しけた煙草をライターでつける。

それはささやかな、世界への反抗。

くそったれな世界を燃やせない。

ドラゴンになんかなれない。

煙草をすって、暗闇の中、明日を見ようと、もがく。


(みんな腐ってやがる)

ジョンは心で毒づく。

みんな燃えてしまえばいいのだろうか。

くそったれなこの世界を、

みんな燃やし尽くせばいいのだろうか。

ジョンは、ライターを握り締める。

それはなんだか、


ジョンが忘れた、祈りというものによく似ていた。

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