どこかの扉の向こう。
政府軍とゲリラが、熱帯雨林で戦っていた。
戦争だ。
内戦とも言うのかもしれないし、
クーデターとも言うのかもしれない。
一介の兵士は、そんなことはわからなかった。
名前を仮にジョンとする。
ジョンは兵士だ。
あまり大切に扱われない、一介の兵士だ。
ゲリラを殲滅させよ。
そう言われている、政府軍の兵士だ。
上で何が起こっているのか、わからない。
お偉いさん方は、なにやら考えているらしいが、
ジョンは銃弾の飛び交う中を生き残るので精一杯だ。
(みんな腐ってやがる)
ジョンは心で毒づく。
以前渡った河も腐ってた。
ゲリラのやつらが何か腐らせたのかもしれない。
あっちこっち、においが染み付いている。
よくわからないけれど、腐っていると思った。
政府軍の小さな拠点でジョンは眠る。
休める夢なんて見たためしがない。
腐った河は、脳髄まで腐らせるらしい。
ジョンは、剣の形をした、珍しい小型ライターを取り出す。
タグの他に、自分だといえるもの。
そのうち自分も、ただの死体になるのだろうか。
ジョンは、十字架のようなライターを抱いて泥のように眠った。
世界が燃えている。
腐った世界が燃えている。
ああ、ドラゴンだ。
悪魔のドラゴンが何匹も、
世界を燃やしてやがる。
みんな燃えちまえくそったれ!
ジョンは、夢の中で、炎の熱さを感じた。
足から焼かれ、止まることなく全身、頭もすごい速度で焼かれる。
舌の根が叫びながら燃えていくのがわかる。
くそったれ!
さけびながら、涙が蒸発していくのがわかった。
ジョンは目覚めた。
ああ、夢だったんだと感じる。
タグが首でチャラリとなった。
汗ばんだ臭い手に、十字架のようなライター。
しけた煙草をライターでつける。
それはささやかな、世界への反抗。
くそったれな世界を燃やせない。
ドラゴンになんかなれない。
煙草をすって、暗闇の中、明日を見ようと、もがく。
(みんな腐ってやがる)
ジョンは心で毒づく。
みんな燃えてしまえばいいのだろうか。
くそったれなこの世界を、
みんな燃やし尽くせばいいのだろうか。
ジョンは、ライターを握り締める。
それはなんだか、
ジョンが忘れた、祈りというものによく似ていた。