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第329話 箱舟

どこかの扉の向こう。

斜陽街でないどこか。


この国は、反撃として王族を戦の力にしようとしている。

王族を竜神の器にしようとしているのだ。

シュバルツはかいつまんで、それだけ説明する。

アキ姫は先ほどと同じく、戦に反対の意思を示した。

「反対派は、王族を箱舟に乗せようとしています」

「箱舟?」

「地下に隠されています」

アキ姫は迷った。

戦に反対すれば、国を見捨てるのか。

戦にこの身体を預ければ、この国は救われるのか。

シュバルツがアキ姫の手を握った。

「箱舟に乗れば、この国でアキ姫だけは残れます」

「シュバルツ…」

「はい」

「箱舟の場所まで導け」

「仰せのままに」

シュバルツは駆け出す。

アキ姫は猫を抱いたまま、シュバルツの後についていった。

城はあちこち崩れだしている。

この国が滅ぶのだろうか。

火の海になるのだろうか。

救われないまま、この国は終わってしまうのだろうか。


シュバルツは回廊をかける。

そして、隠し階段を開ける。

「ここへ」

アキ姫が階段に入ると、城が大きく揺れた。

今にも崩れだしそうだ。

シュバルツは、アキ姫が入ったところで、隠し扉を閉めた。


隠し階段が揺れている。

アキ姫は下へと走る。

後ろからシュバルツもついてきている。

やがて、小さく開けたところへやってきた。

そこには、小さな箱舟が一つ。小さな明かりに照らされていた。

何人かの人間の姿が見える。

思うに、王族を使うのに反対する派閥なのだろう。

空間が揺れる。雷のような音がする。

「ここも持ちません」

上のほうで崩れる音がする。

「姫!説明している時間はありません!早く!」

箱舟の入り口が開かれる。

アキ姫は意を決すると、中に入った。

シュバルツが、残ろうとしたのを、

アキ姫は箱舟に引き入れた。

「貴様も巻き添えだ!シュバルツ!」

「ひめ」

「私ひとりで生き残らせようなどと、思うな!」

アキ姫は、叫んだ。

「他の者も…」

言おうとすると、箱舟の扉が閉まった。

シュバルツが説明する。

「乗れるのは、…がんばっても二名です」

アキ姫の、心の足元が崩れた気がした。

「奥に寝台があります。そこで、眠ります」

「眠る?」

「何百年も眠り、平和になったら目覚めると聞きます」

アキ姫はうなずいた。

そして、宣言する。

「この国は、滅びぬ」


そうして、二人と一匹は、箱舟の中で時を越えた眠りについた。

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