どこかの扉の向こう。
斜陽街でないどこか。
この国は、反撃として王族を戦の力にしようとしている。
王族を竜神の器にしようとしているのだ。
シュバルツはかいつまんで、それだけ説明する。
アキ姫は先ほどと同じく、戦に反対の意思を示した。
「反対派は、王族を箱舟に乗せようとしています」
「箱舟?」
「地下に隠されています」
アキ姫は迷った。
戦に反対すれば、国を見捨てるのか。
戦にこの身体を預ければ、この国は救われるのか。
シュバルツがアキ姫の手を握った。
「箱舟に乗れば、この国でアキ姫だけは残れます」
「シュバルツ…」
「はい」
「箱舟の場所まで導け」
「仰せのままに」
シュバルツは駆け出す。
アキ姫は猫を抱いたまま、シュバルツの後についていった。
城はあちこち崩れだしている。
この国が滅ぶのだろうか。
火の海になるのだろうか。
救われないまま、この国は終わってしまうのだろうか。
シュバルツは回廊をかける。
そして、隠し階段を開ける。
「ここへ」
アキ姫が階段に入ると、城が大きく揺れた。
今にも崩れだしそうだ。
シュバルツは、アキ姫が入ったところで、隠し扉を閉めた。
隠し階段が揺れている。
アキ姫は下へと走る。
後ろからシュバルツもついてきている。
やがて、小さく開けたところへやってきた。
そこには、小さな箱舟が一つ。小さな明かりに照らされていた。
何人かの人間の姿が見える。
思うに、王族を使うのに反対する派閥なのだろう。
空間が揺れる。雷のような音がする。
「ここも持ちません」
上のほうで崩れる音がする。
「姫!説明している時間はありません!早く!」
箱舟の入り口が開かれる。
アキ姫は意を決すると、中に入った。
シュバルツが、残ろうとしたのを、
アキ姫は箱舟に引き入れた。
「貴様も巻き添えだ!シュバルツ!」
「ひめ」
「私ひとりで生き残らせようなどと、思うな!」
アキ姫は、叫んだ。
「他の者も…」
言おうとすると、箱舟の扉が閉まった。
シュバルツが説明する。
「乗れるのは、…がんばっても二名です」
アキ姫の、心の足元が崩れた気がした。
「奥に寝台があります。そこで、眠ります」
「眠る?」
「何百年も眠り、平和になったら目覚めると聞きます」
アキ姫はうなずいた。
そして、宣言する。
「この国は、滅びぬ」
そうして、二人と一匹は、箱舟の中で時を越えた眠りについた。