斜陽街番外地。砂屋。
南のほうのアジアの感じの、
すだれのかかっている店だ。
店の中には、区切られて、さまざまの砂があり、
浅い円錐形の編み笠をかぶった、砂屋の主人がいる。
砂屋の主人は、砂の意思が読める。
読んで、砂を彩ることが出来る。
洗い屋でさっぱりした羅刹が、
番外地を歩いていたのは、たまたまだ。
澄んだ音色がする。
羅刹がそちらを見ると、
砂屋の主人が、すだれの近くに風鈴をつるしていた。
「やぁどうも」
砂屋の主人は、会釈をする。
羅刹も浅く礼をする。
「砂のところに行く予定はあるかい?」
羅刹は考える。
羅刹の仕事は、殺意を形にすること。
殺意があればどこにでも行くが、
なければどこにも行かない。
「わからない」
羅刹は、そう答えた。
「砂を探しているんだ」
砂屋は話し出す。
「鳴砂というやつを探しているんだ」
「なきすな?」
羅刹は聞き返す。
「とても繊細で、踏むときゅうとなくんだ」
羅刹は首をかしげる。
そんなものを聞いたことがない。
「美しい海岸にあるといわれているよ」
「そんなところに行く予定はありませんよ」
「どうかな」
砂屋は、編み笠を少し持ち上げる。
そして、羅刹をじっと見る。
「砂に縁があるよ。そのうち行く事もあるさ」
「縁?」
「砂に関するところに行くだろう。そんな縁さ」
「どうせ殺しに行くんですよ」
羅刹はぷいとそっぽを向く。
歩き出そうとする。
「鳴砂は、すごく純粋だよ」
砂屋が後ろから声をかける。
「羅刹君の目のように、純粋だ」
羅刹は足を止める。
そして、サングラスを確認する。
見えるはずがない。
「純粋な殺意、純粋な鳴砂。きっと惹かれあうはずだよ」
「そんなことわかりませんよ」
羅刹はわからない。
少し、いらだった。
砂屋は構わず続ける。
「もし、鳴砂のある場所がわかったら教えてくれ」
「どこ行くかわかりませんよ」
「きっと砂が呼ぶよ。今、そんな縁を持っている」
「もっと、外に行く人に頼めばいいじゃないですか」
「たまたま、縁があったからね」
「わかりませんよ、そんなこと」
羅刹は、すたすたと歩き出した。
ちりーん
風鈴が鳴る。
羅刹は振り返る。
砂屋は店に戻ったのか、
その姿はなかった。