ピエロットのギター弾きが、
廃ビルから来た詩人に、作詞を頼んでいた。
詩人はあせりながら、うんうんうなって詩を作り出す。
時計の針に、せかされるように。
時計のきざみに、せかされるように。
ギター弾きは、前髪で視線が見えないが、
口元は微笑んでいた。
一生懸命であることが、ほほえましかったのかもしれない。
ギター弾きは、ギターを奏でるのを、ちょっと止めた。
詩人はうんうんうなっていたが、
やがて、音が聞こえなくなったことに気がつき、
「あれ?」
と、言いながらきょろきょろあたりを見回した。
世界に没頭していたせいもあるのだろう。
「ちょっと休みましょう。何飲みます?」
「あ、う、えーと、アイスココア…」
詩人はどもりながら、注文する。
ギター弾きはコーヒーを注文した。
ギター弾きは、詩人からつむがれた、ノートを手に取る。
詩人は詩人で、オーバーヒートしたエンジンか何かのように、
ぐったり椅子にもたれかかっていたる。
ぷしゅうという効果音も聞こえてきそうだ。
「ファイアドラゴン…ですか」
ギター弾きは、ノートに叩きつけられた言葉を一つ、読む。
気弱な詩人からは考えにくい、
叩きつけられた言葉。
ノートに叩きつけ、そして、形を得る詩人の詩。
実はこの詩人、心のそこでは、
無邪気なほど乱暴なのかもしれない。
ギター弾きは、そんなことを思った。
「お待たせしました」
ピエロットの店員が、コーヒーとアイスココアをもって来る。
詩人が、鈍い歯車のように、ゆっくりと動く。
「それじゃ、乾杯」
「か、かんぱ、い」
詩人は冷たいココアを飲む。ほうとため息が落ちた。
「小説は、書かれないのですか?」
ギター弾きが、詩人にノートを戻しながら、たずねる。
詩人は大いにむせこんだ。
「な、な、な」
「なんだか、小説を書いたら面白そうだなと」
「な、な、な」
「なんでかはわかりませんけど、なんとなくです」
詩人は再び、ぷしゅうと、気の抜けた感じになる。
「大丈夫ですよ、斜陽街の連中なら、わかってくれますよ」
「小説書くのは、苦手ですよ」
詩人はぼやく。
無邪気と思った詩人は、実は繊細なのかもしれない。
ギター弾きは、評価を改めた。