斜陽街番外地、探偵事務所がある。
ここの探偵は、勘がいい。
大きな事件は入ってこないが、
斜陽街のこまごましたことをこなして、
のんびりやっている。
事件も入ってこないときは、
探偵は助手と一緒にお茶したりしている。
くだらないことをしたり、世間話をしたり。
あるいは寝ていたりする。
それでもやっていけるのが、斜陽街だ。
探偵は、眼鏡をかけてみた。
レンズは入っていない、伊達眼鏡だ。
にやりと笑ってみる。
「なんか、詐欺師のようですよ」
助手がお茶を入れてやって来る。
「詐欺師とはなんだ」
「なんか、そう見えるんですから」
「うーん、かっこいいと思うんだがな」
探偵は鏡を覗き込む。
にやりと笑ってみたりする。
やっぱり詐欺師のようだ。
探偵は認めたくない。
しかし、どう笑っても、なんだか胡散臭い。
眼鏡を外して、同じように笑う。
こっちのほうが、違和感はない。
「ハードボイルドな感じを出したかったんだがな」
探偵は髪形を手ぐしで整える。
それでもなんだか、いつものほうがいい気がする。
「きまらないなぁ…」
探偵はぼやいた。
「それでも、いつものほうがいいですよ」
「うむ」
探偵は、わざと重々しく言ってみた。
似合わない気がした。
「音屋みたいに、似合うのが欲しかった訳なんだがな」
「音屋さんのは、まん丸ですよね」
「あれはあれで似合ってるしな」
「それで、扉くぐって、行ってきたんですか?」
「まぁ、そういうことだ」
探偵は、椅子にもたれかかる。
勘が何かを伝えて来る。窓。
探偵はそちらを見ると、人影が浮かび上がった。
「おや、螺子ドロボウじゃないか」
探偵は、つかつか歩み寄ると、窓を開ける。
螺子ドロボウは、身軽に窓に腰掛けた。
「どうも」
螺子ドロボウの右目に、片眼鏡がはめ込まれている。
「ドロボウらしくなったな」
「おかげさまで」
「で、見せびらかしか?」
「身のこなしと、視界の確認です」
螺子ドロボウは、片手をひらひらとする。
「どうせ、螺子師にちょっかい出すんだろ」
「それが生きがいですから」
螺子ドロボウは笑う。
詐欺師というより、しゃれたドロボウだ。
探偵は、ちょっと悔しくなった。
「ではまたどこかで」
螺子ドロボウは、暗がりに落ちていった。
探偵は席に戻ると、居眠りを決め込んだ。