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第320話 眼鏡

斜陽街番外地、探偵事務所がある。

ここの探偵は、勘がいい。

大きな事件は入ってこないが、

斜陽街のこまごましたことをこなして、

のんびりやっている。


事件も入ってこないときは、

探偵は助手と一緒にお茶したりしている。

くだらないことをしたり、世間話をしたり。

あるいは寝ていたりする。

それでもやっていけるのが、斜陽街だ。


探偵は、眼鏡をかけてみた。

レンズは入っていない、伊達眼鏡だ。

にやりと笑ってみる。

「なんか、詐欺師のようですよ」

助手がお茶を入れてやって来る。

「詐欺師とはなんだ」

「なんか、そう見えるんですから」

「うーん、かっこいいと思うんだがな」

探偵は鏡を覗き込む。

にやりと笑ってみたりする。

やっぱり詐欺師のようだ。

探偵は認めたくない。

しかし、どう笑っても、なんだか胡散臭い。

眼鏡を外して、同じように笑う。

こっちのほうが、違和感はない。

「ハードボイルドな感じを出したかったんだがな」

探偵は髪形を手ぐしで整える。

それでもなんだか、いつものほうがいい気がする。

「きまらないなぁ…」

探偵はぼやいた。

「それでも、いつものほうがいいですよ」

「うむ」

探偵は、わざと重々しく言ってみた。

似合わない気がした。


「音屋みたいに、似合うのが欲しかった訳なんだがな」

「音屋さんのは、まん丸ですよね」

「あれはあれで似合ってるしな」

「それで、扉くぐって、行ってきたんですか?」

「まぁ、そういうことだ」

探偵は、椅子にもたれかかる。

勘が何かを伝えて来る。窓。

探偵はそちらを見ると、人影が浮かび上がった。

「おや、螺子ドロボウじゃないか」

探偵は、つかつか歩み寄ると、窓を開ける。

螺子ドロボウは、身軽に窓に腰掛けた。

「どうも」

螺子ドロボウの右目に、片眼鏡がはめ込まれている。

「ドロボウらしくなったな」

「おかげさまで」

「で、見せびらかしか?」

「身のこなしと、視界の確認です」

螺子ドロボウは、片手をひらひらとする。

「どうせ、螺子師にちょっかい出すんだろ」

「それが生きがいですから」

螺子ドロボウは笑う。

詐欺師というより、しゃれたドロボウだ。

探偵は、ちょっと悔しくなった。


「ではまたどこかで」

螺子ドロボウは、暗がりに落ちていった。

探偵は席に戻ると、居眠りを決め込んだ。

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