どこかの扉の向こう。
斜陽街でないどこか。
アキ姫は穏やかに日々を過ごしていた。
竜神の間に行ってから、歴史に少し興味を持った。
それなのに、歴史学者はなかなか来なかった。
アキ姫は不満だったが、
歴史以外の勉学などに励むことで解消した。
竜神。
それがずっと引っかかっていた。
ある日の午後。
アキ姫は中庭に猫とともにいた。
猫が不安げに鳴いた。
アキ姫は空を見る。
空が…割れた気がした。
真っ赤になって割れた気がした。
アキ姫は、不安にかられ、猫を抱きしめた。
「誰か!」
アキ姫は叫ぶ。
割れた空から、赤い星が落ちるようだ。
轟音がする。
「誰か!」
中庭が、城が揺れる。
「アキ姫!」
シュバルツが駆けてくる。
「アキ姫!ご無事でしたか!」
「シュバルツ、これは、これは…」
「アキ姫、落ち着いて聞いてください」
アキ姫はうなずく。
「これは、戦争です」
「せん、そう」
「隣の国が、竜神の力を使って、攻めてきました」
「そんな」
「王族を殺そうと、国王様を、アキ姫様を狙っています」
「うそだ」
アキ姫はカタカタと震える。
シュバルツは、苦い表情をする。
「隣の国の竜神は、この国を滅ぼそうとしています」
「滅ぼす…?」
「星が…落ちてきたのを見ましたか?」
アキ姫はうなずく。
「あの星は、火の星、大地を飲む火だそうです」
「大地を…それでは、国民は」
シュバルツは、アキ姫の手を取った。
中庭から、テラスへと出る。
「見てください」
熱風が吹く。
そこは火の海。
アキ姫の見ていた緑あふれる平和な国は、
先ほどの一瞬で、地獄になっていた。
叫びが聞こえる。
嘆きが聞こえる。
大地を飲む火が、国を飲み込んでいる。
「隣の国が、竜神を解き放った結果です」
「この国は…終わりなのか」
シュバルツはアキ姫の肩を抱く。
アキ姫は瞬きも出来ず、真っ赤な国を見ている。
「アキ姫、聞いてください」
アキ姫は呆然としている。
「この国も、反撃をしようと、竜神の器を使おうとしています」
「竜神の…だと?」
「竜神の血を引くもの、王族を、戦の力にしようとしています」
シュバルツは続ける。
「私は、アキ姫が竜神になることを、反対します」
アキ姫は、手を握った。
「奇遇だな、私も、反対、だ…」
アキ姫は、精一杯強がった。
それが、王族としての誇りだと、アキ姫は信じていた。