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第318話 家具屋

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

三日月模様の描かれた扉の向こうの世界の物語。


うっそうとした森の中。

あたたかな色合いの建物がある。

テラコッタ色の屋根、白い壁、明かりが漏れるいくつかの窓。

兎茶屋というお茶屋だ。

店内に入れば、

やわらかく明るい照明と、木を貴重とした家具で、

穏やかな気持ちになれる。

そして、兎茶屋が扱っている、さまざまの種類のお茶が、

ガラス瓶に入って並んでいる。

その数無数に。

星のようにきらきら光っている。


レンタルビデオ屋は、斜陽街の噂を聞いてやってきた。

いつもホラービデオばかりで、神経をすり減らしていたので、

何か落ち着くものがないかなと。

そして聞いたのが、兎茶屋の噂である。

物は試しにと、やってきた。


「いらっしゃいませ」

レンタルビデオ屋がやってくると、

短い金髪に白のウサギ耳、赤いチョッキの青年が、出迎えた。

「今、ちょっと家具を整理しているところなんです」

見れば、聞いていたよりごちゃっとしているかもしれない。

「お一人で、ですか?」

「いえ、知り合いの家具屋さんに」

「なるほど」

「とにかく、お茶はいかがでしょう?」

「いただきます」

「落ち着くお茶をブレンドしますね」

青年は、手早く瓶からお茶を入れる。


「ウサギ殿」

がらがらの声が店の奥からする。

「奥の棚の整理が終わったでござる」

ごつごつと足音がする。

足音の主は、店内にやってくる。

そして、奥の扉から、にゅっとあらわれたのは、

大柄で見上げるほどの、坊主の男だ。


「お客さんにも紹介しておくよ。こちら家具屋入道さんです」

家具屋入道は、ぺこりと礼をした。

「家具屋入道でござる」

「どうも、レンタルビデオ屋です」

「ハイカラでござるな」

「そうでもないですよ」

レンタルビデオ屋は謙遜する。

「はいはい、家具屋さんにもお茶入れたよ」

「かたじけない。…月の茶でござるか」

「ご名答」

青年は、ウインクする。

「そういえば、怪奇物のビデオで、お茶のものがありましたね」

「お茶の?」

「はい、お茶をかがせると狼になってしまう、見世物らしいんですけど」

「面妖な」

「月のお茶と、何か関係あるのかなと、それだけです」

「世の中は謎に満ちているでござる」

「それだけ、怪奇物というのは、奥が深いんですよ」

「なるほど」

入道は納得し、茶をすする。

レンタルビデオ屋は、少し落ち着いた気がした。

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