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第315話 音色

斜陽街一番街、音屋。

鳥篭屋は、言葉が鈴の音色になった、

もと浮浪者を連れてきた。


音屋に鈴の浮浪者を入れようとして、

鳥篭屋は考える。

「あんた」

鳥篭屋が鈴の浮浪者に問いかける。

「文字は書けるかい?」

鈴の浮浪者は、考え込む。

「しょうがないね、一緒に行くから」

鳥篭屋は音屋のガラス扉を開いた。


あふれ出る音、音、音。

鳥篭屋は承知していたが、

鈴の浮浪者はかなり驚いたらしい。

唖然としているのを、鳥篭屋は店の中に引っ張り込んだ。

ガラス扉が閉まり、

音は音屋の店内に流れる、いつもの流れへと変わった。

血液のように、店内に音が流れている。

あまりにも流れる音が多すぎて、

一種有機的な感覚も持つ。

鳥篭屋は、音屋の奥へと、鈴の浮浪者を連れて行った。

足音もかき消される。

ただ、無数のスピーカーが音を流している。


音屋の奥に、主人がいる。

しわっぽい顔をした、丸眼鏡の男だ。

鳥篭屋が何か話しかけようとした。

が、声がかき消されることに気がつく。

あちこち見回して、客用ホワイトボードを見つける。

音屋も気がついたようだ。

『いらっしゃいませ』

音屋がホワイトボードに書く。

『音を引き取ってもらいたいんだ』

鳥篭屋が、鈴の浮浪者を示す。

音屋は丸眼鏡の底で、目をしぱしぱさせる。

『音色が変わってしまってますね』

音屋のその言葉に、

鳥篭屋は怪訝な顔をした。

『浮浪者くらい何もないと、音色を書き換えるものです』

音屋はホワイトボードを示し、また、消す。

『この音色をはがします』

音屋がホワイトボードを示す。

『たのむよ』

鳥篭屋は、ホワイトボードにそう書いた。


音屋は、手招きをする。

鈴の浮浪者が前に出される。

音屋は、鈴の浮浪者から、ゆらゆら揺らめくものを取った。

そのまま、手近にあったカセットテープに入れる。

『音色をはがしました』

音屋はホワイトボードに書くと、カセットテープを鳥篭屋に渡した。

『それから、音色を変えた大本も、手放したほうがいいでしょう』

鈴の浮浪者は仕方ないように、鈴を取り出した。

鳥篭屋が受け取る。

『できれば返しておくよ』

鳥篭屋はそう示したつもりだが、

浮浪者の姿は、もう、なくなっていた。


『邪魔したね』

鳥篭屋はそう書き残して消すと、

音屋をあとにした。

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