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第313話 路地

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

アルミの細工のしてある扉の向こうの物語。


ウゲツはネココを追った。

白い立方体の狭間の路地。

長くネココの影が映っている。

「こっちだよ」

ネココが、影のままでウゲツをいざなう。

ウゲツは自転車を押したまま、追う。

自転車に乗っては、追いつけない気がした。


お囃子の音がする。

方向はわからない。

壁から響くようでもあるし、

路地の向こうからするようでもある。

笛の音、太鼓の音、かすかに掛け声らしきものも聞こえる。

立方体の壁が続いている。

時折、ネココの影が映る。

立方体の光と影の間、

ウゲツはネココを追う。


笑い声が聞こえる気がする。

近代村の、村人の声だろうか。

それはとても無垢な笑い声の気がした。

楽しいのだろうか。

ここは、楽しいのだろうか。

背の高い立方体。

ウゲツはふと、路地で足を止めた。

この路地の始まりはどこだっただろう。

どこで一体終わりになるんだろう、

この立方体の窓は、入り口は、一体どこだろう。

思った途端、ウゲツは怖くなった。

自分は迷い込んではいけないところに、迷い込んだのか。


お囃子が遠く近くから聞こえる。

笑い声がする。

腹に響くような和太鼓。

「こっちだよ」

ネココの声は後ろからした。

ウゲツは振り返る。

ネココの影が後ろで、角を曲がっていった。

とにかくネココを追いかけよう。

ウゲツは思い直し、自転車の向きを変えると、

また、ネココを追った。


「迷わないでおいでよ」

ネココの声が遠く近くに聞こえる。

「君は行き着くところに行き着くだけだよ」

ネココの足音が響く。

お祭りの拍子に似ている気がした。

それはとてもリズミカルで、よく響く。

ウゲツは自転車を押す。

スピードはでない。

それでも、ネココを追う。

影法師のネココは、猫のようにひらりひらりと角を曲がっていく。

ウゲツは思う。

とにかく追いつかなくちゃと。


「思い出を探そうよ」

ネココの声がする。

「それはお客にとっての思い出さ」

ウゲツはわからない。

「お客の思い出は、懐かしいそこにあるんだよ」

ネココの声が近くで聞こえた気がして、

ウゲツは走った。

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