斜陽街一番街、病気屋。
ここは、病気を調べたり、病気を売ったりする店だ。
店内にはカプセルやシャーレが置かれていて、
奥の病気屋の部屋には、
病気に関することの研究成果が置いてある。
まだ未知の病気も多いらしいが、
病気屋は、治らない病気を売らない。
そして、わからないことは率先して調べる。
わからない病気をなくしたい。
病気屋は、そんな思いで病気屋をやっている。
「それで、ご用件はなんですか?」
病気屋は店に出た。
もっさりと大柄で、クマのような病気屋である。
「あいつが、同化してくるんだ」
「同化?」
病気屋は、一瞬悪性腫瘍を思った。
判断理由が少なく、とにかくたずねる。
「それは、どういうことでしょうか」
問いかけながら、カルテをつくる。
見た目の年齢、性別、その他もろもろを見たままに記入する。
外れているなら、あとで書き換えればいい。
「あいつが、全てを同化させて、俺を狙っているんだ」
客は何かにおびえているようだ。
あいつ、とか言うものに、おびえているのかもしれない。
「ふぅむ…」
病気屋は考え込む。
ペンの頭で、髪をかきかきする。
「あいつ、とは、あなたの内側ですか?」
「…いや、外側の、気が…」
客は頭を激しく振った。
「いや、内と外から俺を狙っている!同化させようと狙っている!」
病気屋は困った。
この症状はどちらかというと、妄想屋向きだ。
病気屋はわかる範囲で、書類を書く。
客はぶつぶつと何かを唱えている。
「できました」
病気屋は書類を、客に渡す。
「これをもって、バーに行ってください」
「…バー?」
「ここよりも、妄想屋という人のほうが向いているとおもいます」
「妄想屋」
「バーのボックス席にいますよ」
「同化する病気は…」
「妄想屋が判断したら、また、ここで調べます」
「…そうか」
客は力なく、とぼとぼと扉を目指した。
扉に手をかけ、振り向く。
「それより前に、俺が同化したらどうする?」
「わかりません」
病気屋は、そう答える。
「そうか…いや、いいんだ」
客は扉を開けると、斜陽街に出て行った。
「同化させるもの…」
以前夜羽のところで、全てを同化させるのがいたとか、
そんなことを、きいた気がする。
「気のせいかな」
病気屋は書類とカルテを仕舞うと、また、研究に戻っていった。