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第312話 同化

斜陽街一番街、病気屋。

ここは、病気を調べたり、病気を売ったりする店だ。

店内にはカプセルやシャーレが置かれていて、

奥の病気屋の部屋には、

病気に関することの研究成果が置いてある。

まだ未知の病気も多いらしいが、

病気屋は、治らない病気を売らない。

そして、わからないことは率先して調べる。

わからない病気をなくしたい。

病気屋は、そんな思いで病気屋をやっている。


「それで、ご用件はなんですか?」

病気屋は店に出た。

もっさりと大柄で、クマのような病気屋である。

「あいつが、同化してくるんだ」

「同化?」

病気屋は、一瞬悪性腫瘍を思った。

判断理由が少なく、とにかくたずねる。

「それは、どういうことでしょうか」

問いかけながら、カルテをつくる。

見た目の年齢、性別、その他もろもろを見たままに記入する。

外れているなら、あとで書き換えればいい。

「あいつが、全てを同化させて、俺を狙っているんだ」

客は何かにおびえているようだ。

あいつ、とか言うものに、おびえているのかもしれない。

「ふぅむ…」

病気屋は考え込む。

ペンの頭で、髪をかきかきする。

「あいつ、とは、あなたの内側ですか?」

「…いや、外側の、気が…」

客は頭を激しく振った。

「いや、内と外から俺を狙っている!同化させようと狙っている!」

病気屋は困った。

この症状はどちらかというと、妄想屋向きだ。

病気屋はわかる範囲で、書類を書く。

客はぶつぶつと何かを唱えている。


「できました」

病気屋は書類を、客に渡す。

「これをもって、バーに行ってください」

「…バー?」

「ここよりも、妄想屋という人のほうが向いているとおもいます」

「妄想屋」

「バーのボックス席にいますよ」

「同化する病気は…」

「妄想屋が判断したら、また、ここで調べます」

「…そうか」

客は力なく、とぼとぼと扉を目指した。

扉に手をかけ、振り向く。

「それより前に、俺が同化したらどうする?」

「わかりません」

病気屋は、そう答える。

「そうか…いや、いいんだ」

客は扉を開けると、斜陽街に出て行った。


「同化させるもの…」

以前夜羽のところで、全てを同化させるのがいたとか、

そんなことを、きいた気がする。

「気のせいかな」

病気屋は書類とカルテを仕舞うと、また、研究に戻っていった。

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