斜陽街二番街、猫屋敷と呼ばれる屋敷がある。
猫をたくさん飼っている屋敷だ。
猫屋敷の女主人は、猫をとても大切にしている。
猫もちゃんとしつけられていて、行儀がよく、
ともに屋敷で静かに暮らしている。
占い屋のマダムが、猫屋敷にやってきた。
占いの出張サービスのようなものだ。
通常なら、占い屋のほかの占い師が来るが、
マダムは、少し感じることがあり、
じきじきにやってきた。
路地の端っこの扉から入ると、
意外と広い屋敷。
猫があちこちのんびりと過ごしている。
「いいお屋敷ね」
マダムは感じたままに言う。
「ありがとうございます」
女主人は丁寧に返す。
そして、居間の椅子を引く。
「どうぞ、今、お茶を入れますね」
「ありがと」
マダムは椅子に腰掛けた。
足元で猫が、にゃあんと鳴いた。
マダムは屋敷を見回す。
猫だらけで、気配はおぼろげだが、
どこかとつながっている感じがした。
「一箇所…じゃないわね、変わった気配ね」
けだるげに頬杖をつき、気配を辿る。
つなげている気配。
それは、扉屋の扉とか、そういうのに近い。
あるいは、縁と呼ばれるものかもしれない。
頬杖をついていない片手で、占い用の針金を取り出す。
チリリンと針金が澄んだ音色を奏でる。
「どこかしらね」
マダムは針金をもてあそぶ。
すると、ある方向でマダムの感じる気配。
マダムは席を立ち、歩み寄る。
窓際に、小さな箱らしきもの。
「あ…」
お茶を入れていた女主人が、小さく声を上げる。
「あの、それは…」
「変わった痕跡を感じたの」
「痕跡…」
「いわくあり?」
「大切なオルゴールです」
「そう、大事にしたらいいと思うわ」
「はい」
女主人はお茶を注ぐ。
マダムは他の痕跡や縁を探る。
針が鳴る。
場所の特定が出来ない。
「そもそも、占いで何が知りたいのかしら」
女主人は困った顔をする。
「時々、意識がとぎれるです」
「意識…」
マダムは屋敷をまた、見回す。
針金が漠然と鳴る。
マダムは女主人も猫も包むような、そんなイメージを感じた。
「イメージの痕跡があるわ。猫の目の少女」
「猫の目の?」
「屋敷全体から、何かを作り出した痕跡」
「そんな、おおきなこと…」
「猫屋敷全体のイメージ。そこから何かがつながってる」
マダムはまた、席に戻る。
「お茶をいただくわ。とりあえず、痕跡の害はないはずよ」
マダムはにっこり微笑んだ。