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第311話 痕跡

斜陽街二番街、猫屋敷と呼ばれる屋敷がある。

猫をたくさん飼っている屋敷だ。

猫屋敷の女主人は、猫をとても大切にしている。

猫もちゃんとしつけられていて、行儀がよく、

ともに屋敷で静かに暮らしている。


占い屋のマダムが、猫屋敷にやってきた。

占いの出張サービスのようなものだ。

通常なら、占い屋のほかの占い師が来るが、

マダムは、少し感じることがあり、

じきじきにやってきた。


路地の端っこの扉から入ると、

意外と広い屋敷。

猫があちこちのんびりと過ごしている。

「いいお屋敷ね」

マダムは感じたままに言う。

「ありがとうございます」

女主人は丁寧に返す。

そして、居間の椅子を引く。

「どうぞ、今、お茶を入れますね」

「ありがと」

マダムは椅子に腰掛けた。

足元で猫が、にゃあんと鳴いた。


マダムは屋敷を見回す。

猫だらけで、気配はおぼろげだが、

どこかとつながっている感じがした。

「一箇所…じゃないわね、変わった気配ね」

けだるげに頬杖をつき、気配を辿る。

つなげている気配。

それは、扉屋の扉とか、そういうのに近い。

あるいは、縁と呼ばれるものかもしれない。

頬杖をついていない片手で、占い用の針金を取り出す。

チリリンと針金が澄んだ音色を奏でる。

「どこかしらね」

マダムは針金をもてあそぶ。

すると、ある方向でマダムの感じる気配。

マダムは席を立ち、歩み寄る。

窓際に、小さな箱らしきもの。

「あ…」

お茶を入れていた女主人が、小さく声を上げる。

「あの、それは…」

「変わった痕跡を感じたの」

「痕跡…」

「いわくあり?」

「大切なオルゴールです」

「そう、大事にしたらいいと思うわ」

「はい」

女主人はお茶を注ぐ。

マダムは他の痕跡や縁を探る。

針が鳴る。

場所の特定が出来ない。


「そもそも、占いで何が知りたいのかしら」

女主人は困った顔をする。

「時々、意識がとぎれるです」

「意識…」

マダムは屋敷をまた、見回す。

針金が漠然と鳴る。

マダムは女主人も猫も包むような、そんなイメージを感じた。

「イメージの痕跡があるわ。猫の目の少女」

「猫の目の?」

「屋敷全体から、何かを作り出した痕跡」

「そんな、おおきなこと…」

「猫屋敷全体のイメージ。そこから何かがつながってる」

マダムはまた、席に戻る。


「お茶をいただくわ。とりあえず、痕跡の害はないはずよ」

マダムはにっこり微笑んだ。

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