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第310話 腐敗

斜陽街三番街。がらくた横丁。

鎖師の店はそこにある。

鎖師は鎖を扱う職業。

さまざまの鎖をぶら下げて、店を出している。


薄い表情の女性が店で鎖を作っている。

彼女が鎖師だ。

鎖は出来たはしからぶら下げられて、

鎖の迷路のようになっている。

また、輝く鎖が鎖師のそばにいる。

鎖師が一息入れるときに、輝く鎖を引っ張る。

すると、輝く鎖は意思を持ったかのように動き出し、

奥に引っ込むとお茶を入れて戻ってきたりする。

鎖師の助手みたいなものかもしれない。


「くさりくさりし…」

鎖師がつぶやく。

「くさりくさりしくさりしなれど…」

そばの輝く鎖が、おびえたようにちりちりなった。

そのかすかな音で、鎖師は、我にかえった。

「また…」

鎖師は頭を振る。

「また、やっちゃったみたいね」

薄い表情に、少しだけ、苦い表情を上乗せする。

「この側面を消すことって出来ないのかしらね…」

鎖師は輝く鎖を引っ張る。

輝く鎖は奥に行った。


鎖師には、もう一つの側面がある。

あまり知られていないが、

『腐り死』の側面だ。

何かを腐らせて死に至らしめる。

嫌な側面だと鎖師は思う。

自分の側面が腐っているとき、

無意識に、どこかの場所を腐らせてしまうらしい。

それはとても汚いし、悪臭漂うだろうし、どろどろしている。

鎖師はそんな印象を持つ。

自分がその側面を制御できないから、

どこかの世界で腐っている。

今回は灰色の場所が腐ったと感じた。

少し遠くに立方体。

灰色と煙突の場所。

そこは汚れていたが、さらに腐ってしまったなと感じた。


輝く鎖が奥からお茶を持って戻ってくる。

「ありがとう」

鎖師がお茶を受け取ると、

輝く鎖はまた、鎖師のそばに待機した。


あるいは、

鎖師は思う。

あるいは腐った場所を浄化するようなものもあれば、

そうすれば鎖師も自分の側面を受け入れられるかもしれない。

自分の全てを受け入れることは、難しい。

それでも、鎖師は連鎖させてどこかを腐らせる。

場所が腐れば人も腐るか。

やがて鎖師の根っこまで腐らせないか。

鎖師は、それは嫌だと感じた。


「私は鎖師」

鎖師はつぶやく。

「腐ってたまるものですか」

鎖師は静かに、自分の側面に宣戦布告した。

鎖師のどこかが、笑った気がした。

それもきっと、つながっていると、鎖師は感じた。

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