斜陽街三番街。がらくた横丁。
鎖師の店はそこにある。
鎖師は鎖を扱う職業。
さまざまの鎖をぶら下げて、店を出している。
薄い表情の女性が店で鎖を作っている。
彼女が鎖師だ。
鎖は出来たはしからぶら下げられて、
鎖の迷路のようになっている。
また、輝く鎖が鎖師のそばにいる。
鎖師が一息入れるときに、輝く鎖を引っ張る。
すると、輝く鎖は意思を持ったかのように動き出し、
奥に引っ込むとお茶を入れて戻ってきたりする。
鎖師の助手みたいなものかもしれない。
「くさりくさりし…」
鎖師がつぶやく。
「くさりくさりしくさりしなれど…」
そばの輝く鎖が、おびえたようにちりちりなった。
そのかすかな音で、鎖師は、我にかえった。
「また…」
鎖師は頭を振る。
「また、やっちゃったみたいね」
薄い表情に、少しだけ、苦い表情を上乗せする。
「この側面を消すことって出来ないのかしらね…」
鎖師は輝く鎖を引っ張る。
輝く鎖は奥に行った。
鎖師には、もう一つの側面がある。
あまり知られていないが、
『腐り死』の側面だ。
何かを腐らせて死に至らしめる。
嫌な側面だと鎖師は思う。
自分の側面が腐っているとき、
無意識に、どこかの場所を腐らせてしまうらしい。
それはとても汚いし、悪臭漂うだろうし、どろどろしている。
鎖師はそんな印象を持つ。
自分がその側面を制御できないから、
どこかの世界で腐っている。
今回は灰色の場所が腐ったと感じた。
少し遠くに立方体。
灰色と煙突の場所。
そこは汚れていたが、さらに腐ってしまったなと感じた。
輝く鎖が奥からお茶を持って戻ってくる。
「ありがとう」
鎖師がお茶を受け取ると、
輝く鎖はまた、鎖師のそばに待機した。
あるいは、
鎖師は思う。
あるいは腐った場所を浄化するようなものもあれば、
そうすれば鎖師も自分の側面を受け入れられるかもしれない。
自分の全てを受け入れることは、難しい。
それでも、鎖師は連鎖させてどこかを腐らせる。
場所が腐れば人も腐るか。
やがて鎖師の根っこまで腐らせないか。
鎖師は、それは嫌だと感じた。
「私は鎖師」
鎖師はつぶやく。
「腐ってたまるものですか」
鎖師は静かに、自分の側面に宣戦布告した。
鎖師のどこかが、笑った気がした。
それもきっと、つながっていると、鎖師は感じた。