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第309話 竜神

どこかの扉の向こう。

斜陽街でないどこか。


アキ姫は、お供のシュバルツとともに、

子猫を追い掛け回す。

さっき、シュバルツに捨てて来いと言われた子猫だ。

子猫はあっちこっちを走り回る。

アキ姫も追う。

そして、城の奥のほうで、アキ姫は子猫を捕まえた。

後ろからシュバルツが、息を切らして追いかけて来る。

「遅いぞシュバルツ!」

「は、はい…」

「とにかく、この猫は私が飼う!文句は言わせんぞ」

「はい…」

シュバルツの負けだ。

シュバルツは、がっくり肩を落とした。

子猫がにゃあとなく。

「そういえば、ここは城のどこだろうな」

アキ姫があたりを見回す。

城の奥だということは、なんとなくわかるが、

あまりいろいろ見たことはない。

何かが描かれている壁画と、

扉がいくつかあるらしい。

「竜神の間、でしょうか」

シュバルツはあたりを見て、そう思ったらしい。

「竜神?」

「よくわかりませんけれど、歴史で少し学びました」

「ふぅん」

「アキ姫様は、学ばなかったのですか?」

「正直、学者の話は回りくどすぎる」

「そうですか…」

「シュバルツ、少し聞かせろ」

「はい」


この王国の祖は竜神である。

赤い髪は炎の竜神の色である。

竜神が争うことにより、幾多の命が失われた。

竜神は封じられた。

竜神を起こしてはならぬ、

戦をしてはならぬ。


「…と、大雑把に言えばこんなものです」

「ふぅむ、この髪が竜神の髪か」

アキ姫は、自分の赤い髪をくるくる回した。

「古い古い昔の話です。それを描いたのが…」

シュバルツは壁画を示す。

「この、竜神の間の壁画と思うのです」

「なるほどなぁ」

アキ姫は感心した。

「今も歴史学者が調べているとききます」

「なるほど、歴史とは面白いものだな」

「王族の系図を作るにあたって、調べているとか」

「なるほど、祖先を調べれば、竜神に行き着くわけか」

「そう…だと思うのです」

「どのくらい昔の先祖が、竜神なんだろうな」

アキ姫は、壁画を見渡す。

赤い竜神、炎の竜神。

竜神。先祖らしいもの。

「今度から学者の話も少し聞くべきかな」

アキ姫はつぶやく。

竜神のことを知らないといけないと思った。

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