どこかの扉の向こう。
斜陽街でないどこか。
アキ姫は、お供のシュバルツとともに、
子猫を追い掛け回す。
さっき、シュバルツに捨てて来いと言われた子猫だ。
子猫はあっちこっちを走り回る。
アキ姫も追う。
そして、城の奥のほうで、アキ姫は子猫を捕まえた。
後ろからシュバルツが、息を切らして追いかけて来る。
「遅いぞシュバルツ!」
「は、はい…」
「とにかく、この猫は私が飼う!文句は言わせんぞ」
「はい…」
シュバルツの負けだ。
シュバルツは、がっくり肩を落とした。
子猫がにゃあとなく。
「そういえば、ここは城のどこだろうな」
アキ姫があたりを見回す。
城の奥だということは、なんとなくわかるが、
あまりいろいろ見たことはない。
何かが描かれている壁画と、
扉がいくつかあるらしい。
「竜神の間、でしょうか」
シュバルツはあたりを見て、そう思ったらしい。
「竜神?」
「よくわかりませんけれど、歴史で少し学びました」
「ふぅん」
「アキ姫様は、学ばなかったのですか?」
「正直、学者の話は回りくどすぎる」
「そうですか…」
「シュバルツ、少し聞かせろ」
「はい」
この王国の祖は竜神である。
赤い髪は炎の竜神の色である。
竜神が争うことにより、幾多の命が失われた。
竜神は封じられた。
竜神を起こしてはならぬ、
戦をしてはならぬ。
「…と、大雑把に言えばこんなものです」
「ふぅむ、この髪が竜神の髪か」
アキ姫は、自分の赤い髪をくるくる回した。
「古い古い昔の話です。それを描いたのが…」
シュバルツは壁画を示す。
「この、竜神の間の壁画と思うのです」
「なるほどなぁ」
アキ姫は感心した。
「今も歴史学者が調べているとききます」
「なるほど、歴史とは面白いものだな」
「王族の系図を作るにあたって、調べているとか」
「なるほど、祖先を調べれば、竜神に行き着くわけか」
「そう…だと思うのです」
「どのくらい昔の先祖が、竜神なんだろうな」
アキ姫は、壁画を見渡す。
赤い竜神、炎の竜神。
竜神。先祖らしいもの。
「今度から学者の話も少し聞くべきかな」
アキ姫はつぶやく。
竜神のことを知らないといけないと思った。