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第308話 剣

玩具屋はチョークの箱を片付ける。

さっき子どもたちが追加をほしがっていたので、

何本かあげたところだ。

子どもの想像力はすごい。

掃除すれば落ちてしまうチョークの落書きに、

子どもたちは物語を持たせることが出来る。

玩具屋は、そう思う。


こんこん


扉をノックする音。

「はい」

「こんにちは」

扉を開けて入ってきたのは、人形師だ。

いつものようにかばんを持っている。

「人形師さんが珍しいですね」

「まぁ、そういうときもあるのです」

「で、何をお求めですか?」

人形師は椅子に腰掛けると、かばんを開けた。

軍人の人形がいる。

「ジョンといいます。新顔です」

人形師が紹介する。

「ほうほう」

「それで、ジョンに持ち物を持たせたいと思ってね」

「軍人人形に、持ち物…」

玩具屋は考える。

「武器ですかね」

「やはりそうですかね」

「何点か持ってきます」

「ありがとう」

玩具屋は、奥に引っ込んだ。


しばらくして、玩具屋が奥から戻ってきた。

「そうですねぇ、銃はどうでしょう」

「どれどれ」

人形師が、軍人人形に銃を持たせる。

どうも、銃が新しすぎる。

人形師と玩具屋も、そう感じたらしい。

「古い武器のほうがいいみたいですね」

「そうだねぇ…ジョンの服が古臭いのかね」

「人形師さんのセンスなのでしょう、斧はどうでしょう」

今度は古臭い斧を持たせてみる。

なんだか斧に振り回されるような印象だ。

人形師は、斧を返した。

玩具屋もうなずいた。

いろいろ試してみる。

玩具屋のカウンターの上は、

小さな武器でいっぱいになった。


「さて、他に武器は…」

「定番の剣ですね」

玩具屋が、おもちゃの剣を何本か取り出す。

「世界中とは行きませんけど、いろいろあります」

「さて、ジョンにはどれがいいだろうね」

人形師が並べられた剣を眺める。

玩具屋も眺める。

そして、ある一振りの剣で目を留める。

国も時代もわからない、剣だ。

玩具屋もわかったらしく、その剣を手に取る。

人形師は、軍人人形に、剣を持たせる。

重さを持ったおもちゃの剣。

しゃれっ気の適度についた剣。

無骨な軍人と、武器の剣。

それは、人形師の思い描いていた軍人であり、

玩具屋の納得するできばえだった。

「これをいただきましょう」

「まいど」


軍人人形が微笑んだ気がした。

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