斜陽街二番街、洗い屋がある。
何でも洗う店だ。
いつも使うものほど洗わなきゃ。
洗い屋は、それが口癖だ。
洗い屋の常連に、
羅刹という男がいる。
男と言い切るには、どこか幼い。
血まみれで洗い屋にやってきては、
シャワーを借りたり、頭を洗ってもらったりするらしい。
羅刹はシャワーからあがった。
「おつかれさまー」
洗い屋が人懐っこい笑みで迎える。
「スーツも洗っておきましたよ」
見れば、羅刹のトレードマークの、
黒スーツ、サングラス、黒いボウガンまで、
ぴかぴかに洗われている。
「…こんなにぴかぴかにしなくてもいいのに」
「いつも使うものほど洗わなくちゃ」
洗い屋はにっこり笑う。
羅刹は幼い顔に、複雑な表情を浮かべた。
「また、血まみれになるよ」
「そしたら洗えばいいんです」
洗い屋は、笑顔を深くする。
「洗えばいいんですよ」
そう言われ、羅刹は気まずそうに視線をそらした。
いつものことらしく、洗い屋は何も言わない。
「さてと」
洗い屋は、マッサージ用の長い台に座る。
「今日は耳掃除しましょう」
「…みみ、そうじ?」
羅刹が繰り返す。
「そう、ここの所、耳はお手入れしてないでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
「はい、ここに頭置いて」
洗い屋は太ももを叩く。
羅刹はきょとんとしたが、すぐ、思い当たる。
「ひ、ひざまくら」
「痛くしないですから、耳掃除」
「あ、う…」
羅刹は半歩だけ後ずさりする。
幼い顔は真っ赤だ。
「大丈夫ですよ」
洗い屋はにっこり笑う。
羅刹は観念して、長い台に座る。
「よろしくおねがいします」
羅刹は深々とお辞儀をする。
洗い屋はそのまま、
むんずと羅刹の頭をつかみ、膝枕にした。
しっとり湿っている羅刹の黒髪を、耳からそっとどける。
耳かきで、こしょこしょと耳たぶをかく。
羅刹はこわばる身体を、リラックスさせた。
洗い屋は、洗うと決めたら譲らないところがある。
羅刹も少し、わかっている。
わかっているのだが、膝枕はちょっと気恥ずかしい。
耳の入り口をかりこりする。
耳の穴をマッサージするような感覚。
優しく、ときに強く。
ごそごそ、こりっこりっ。
耳の大掃除をしている。
羅刹はうとうとする。
緊張はとろけて、くすぐったい快感が身体に走る。
これもいいかもしれない。
羅刹はガラにもなくそんなことを思った。