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第306話 言葉

斜陽街番外地、落ち物通り。

通ると何かを落としてしまう通りだ。

通りの入り口の壁に、スキンヘッドのマネキンが、

首から上の頭と、右手だけを生やしている。


落ち物通りには、斜陽街の浮浪者がいついている。

斜陽街の浮浪者は、自分が何であるかをなくしたもの。

自分が何であるかを得るために、

落ち物通りの落し物を拾ったりしている。

普段は物陰に潜んでいる。


天使の落とした鈴が転がって、ころころと音を立てた。

浮浪者はそれを拾いにわさわさ現れ、

影か何かのように鈴を取り囲む。

マネキンは困った顔をしている。

「変な予感がする気がするの」

やがて、浮浪者の一人が鈴を手にした。

鈴を持った浮浪者は、一応の実体を持つ。

立派な身なりを持ったわけではないが、

人ごみに隠れられるくらいには、身なりは整っている。

その浮浪者は喜んだらしい。

何かを話そうとした。


しゃん!


鈴の音がした。

マネキンは驚いた。

浮浪者はもっと驚いたらしい。

何かを伝えようと口をパクパクさせるが、


しゃんしゃんしゃん!


鈴の音がするばかりだ。

「言葉が鈴になったのね」

鈴の浮浪者は呆然とする。

他の浮浪者は、すすすと、物陰に隠れた。

マネキンは困った顔をした。

「どうしたものかしらね」

鈴の浮浪者も困った顔をした。


「マネキンさん、なんだいそいつは」

おばさんの声がする。

斜陽街でおばさんは少ない。

乱暴な物言いをするおばさんは、鳥篭屋だ。

マネキンと鈴の浮浪者が、鳥篭屋を見る。

鳥篭屋は鳥篭を持って、

番外地の通りを、通りかかったらしい。


しゃんしゃんしゃん!


鈴の浮浪者が鈴の言葉を話し出す。

マネキンは困った顔をする。

「鈴が鳴ってると思ったら、これだったのかい」

「そうなのよ」

「もとは浮浪者かい、こりゃ」

「よくわかるわね」

「伊達に斜陽街にいないよ」

そして、鳥篭屋はアドバイスをする。

「言葉が音になった、それなら音屋じゃないかね」

「音屋、一番街ね」

「善は急げさ、なんだったら一緒に行くかい?」


しゃん!


鈴の浮浪者は大きくうなずいた。

「それじゃ行こうか」

鳥篭屋はつかつか歩き出す。

鈴の浮浪者が続いた。

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