斜陽街番外地、落ち物通り。
通ると何かを落としてしまう通りだ。
通りの入り口の壁に、スキンヘッドのマネキンが、
首から上の頭と、右手だけを生やしている。
落ち物通りには、斜陽街の浮浪者がいついている。
斜陽街の浮浪者は、自分が何であるかをなくしたもの。
自分が何であるかを得るために、
落ち物通りの落し物を拾ったりしている。
普段は物陰に潜んでいる。
天使の落とした鈴が転がって、ころころと音を立てた。
浮浪者はそれを拾いにわさわさ現れ、
影か何かのように鈴を取り囲む。
マネキンは困った顔をしている。
「変な予感がする気がするの」
やがて、浮浪者の一人が鈴を手にした。
鈴を持った浮浪者は、一応の実体を持つ。
立派な身なりを持ったわけではないが、
人ごみに隠れられるくらいには、身なりは整っている。
その浮浪者は喜んだらしい。
何かを話そうとした。
しゃん!
鈴の音がした。
マネキンは驚いた。
浮浪者はもっと驚いたらしい。
何かを伝えようと口をパクパクさせるが、
しゃんしゃんしゃん!
鈴の音がするばかりだ。
「言葉が鈴になったのね」
鈴の浮浪者は呆然とする。
他の浮浪者は、すすすと、物陰に隠れた。
マネキンは困った顔をした。
「どうしたものかしらね」
鈴の浮浪者も困った顔をした。
「マネキンさん、なんだいそいつは」
おばさんの声がする。
斜陽街でおばさんは少ない。
乱暴な物言いをするおばさんは、鳥篭屋だ。
マネキンと鈴の浮浪者が、鳥篭屋を見る。
鳥篭屋は鳥篭を持って、
番外地の通りを、通りかかったらしい。
しゃんしゃんしゃん!
鈴の浮浪者が鈴の言葉を話し出す。
マネキンは困った顔をする。
「鈴が鳴ってると思ったら、これだったのかい」
「そうなのよ」
「もとは浮浪者かい、こりゃ」
「よくわかるわね」
「伊達に斜陽街にいないよ」
そして、鳥篭屋はアドバイスをする。
「言葉が音になった、それなら音屋じゃないかね」
「音屋、一番街ね」
「善は急げさ、なんだったら一緒に行くかい?」
しゃん!
鈴の浮浪者は大きくうなずいた。
「それじゃ行こうか」
鳥篭屋はつかつか歩き出す。
鈴の浮浪者が続いた。