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第304話 施設

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

アルミの細工のしてある扉の向こうの物語。


ウゲツは自転車をこぐ。

後ろにネココが乗っている。

大分遠くに来たような、まだそんなに遠くでないような、

見慣れたような見知らぬような。

そんな町を、ウゲツの自転車は走る。

軽いペダル、あたたかいネココ。

二人は遠くを目指して走る。


ウゲツは遠くに立方体の建物を認めた。

遠近感がよくわからないが、角砂糖のようだと思った。

自転車を走らせていて、わからなかったのだろうか。

突然視界に立方体が現れた気もしたし、

ずっと前から見えている気もした。

「ああ、施設が見えてきたね」

ネココも気がついたらしい。

「あれは、近代村だよ。きんだいむら」

ウゲツはよくわからない。

「とにかく、あっちの村に向かってよ」

ネココが指示する。

ウゲツはそっちに向かって自転車をこいだ。


距離があったはずなのに、

施設はどんどん近づいてきて。

やがてウゲツとネココは、

ネココの言う近代村にやってきた。


白い立方体の建物が、あっちこっちに並んでいる。

ウゲツは近代村の入り口で自転車を降りた。

ネココも降りた。

そして、ネココが説明してくれる。

「近代化するに当たって、村の建物は古臭かったんだって」

ネココはくるりと回る。

「工業地帯に、村は、だめなんだとかね」

工業地帯。それはきっと汚れていると、

ウゲツはなんとなく思った。

「建物だけ近代化した村、村人を入れる施設なんだ、ここは」

ウゲツはよくわからない。

ネココはウゲツの前を歩き出した。

「行こうよ。お祭りがあるはずなんだ」

ネココはひらりと歩き出す。


ウゲツは周りを見回す。

近代村の立方体の建物。遠く近くに工業地帯。

煙突が見える。

耳をすませると、お囃子の音色が聞こえる。

ネココが施設の合間を縫って、駆けていく。

ウゲツは自転車を押したまま、追った。

そっけもない立方体に、曲がっていく影が映る。

人影がないのに、どこからか音が聞こえる。

騒がしいような居心地がいいような。

誰もいないのに、立方体に反響して祭りの音が聞こえる。

方向が狂う。

ウゲツは頭を振った。

そして、お囃子の聞こえる近代村で、ネココを追った。

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