これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
アルミの細工のしてある扉の向こうの物語。
ウゲツは自転車をこぐ。
後ろにネココが乗っている。
大分遠くに来たような、まだそんなに遠くでないような、
見慣れたような見知らぬような。
そんな町を、ウゲツの自転車は走る。
軽いペダル、あたたかいネココ。
二人は遠くを目指して走る。
ウゲツは遠くに立方体の建物を認めた。
遠近感がよくわからないが、角砂糖のようだと思った。
自転車を走らせていて、わからなかったのだろうか。
突然視界に立方体が現れた気もしたし、
ずっと前から見えている気もした。
「ああ、施設が見えてきたね」
ネココも気がついたらしい。
「あれは、近代村だよ。きんだいむら」
ウゲツはよくわからない。
「とにかく、あっちの村に向かってよ」
ネココが指示する。
ウゲツはそっちに向かって自転車をこいだ。
距離があったはずなのに、
施設はどんどん近づいてきて。
やがてウゲツとネココは、
ネココの言う近代村にやってきた。
白い立方体の建物が、あっちこっちに並んでいる。
ウゲツは近代村の入り口で自転車を降りた。
ネココも降りた。
そして、ネココが説明してくれる。
「近代化するに当たって、村の建物は古臭かったんだって」
ネココはくるりと回る。
「工業地帯に、村は、だめなんだとかね」
工業地帯。それはきっと汚れていると、
ウゲツはなんとなく思った。
「建物だけ近代化した村、村人を入れる施設なんだ、ここは」
ウゲツはよくわからない。
ネココはウゲツの前を歩き出した。
「行こうよ。お祭りがあるはずなんだ」
ネココはひらりと歩き出す。
ウゲツは周りを見回す。
近代村の立方体の建物。遠く近くに工業地帯。
煙突が見える。
耳をすませると、お囃子の音色が聞こえる。
ネココが施設の合間を縫って、駆けていく。
ウゲツは自転車を押したまま、追った。
そっけもない立方体に、曲がっていく影が映る。
人影がないのに、どこからか音が聞こえる。
騒がしいような居心地がいいような。
誰もいないのに、立方体に反響して祭りの音が聞こえる。
方向が狂う。
ウゲツは頭を振った。
そして、お囃子の聞こえる近代村で、ネココを追った。